2021/03/04

公認心理師関連団体の構図について

昨日の記事では「日本公認心理師学会」について書きました。
今回はいろいろあってややこしい公認心理師関連団体について少し整理してみようと思います。

現時点での構図

 公認心理師登録者による「職能団体」、公認心理師養成カリキュラムで教育する者(個人でなく組織も含む)による「教育団体」、学術研究の場である「学術団体」の3つについて考えると、大きく2派に分かれているようです(下図)。

 日本公認心理師学会ができたのでこの図には入れていませんが、「一般社団法人心理臨床学会」という団体も図の右側にあたると思います。
 「公認心理師の会」は「公認心理師養成大学教員連絡協議会」の有志が中心に設立したという背景があるので(公認心理師の会HPより)、図の左側の勢力は「日本心理学会」系列といえます。

 「日本公認心理師協会」は、もともと臨床心理士(公益財団法人臨床心理士資格認定協会が発行する民間資格)の職能団体である「一般社団法人日本臨床心理士会」が公認心理師誕生を受けて、名称変更しようとしていた背景からも分かる通り、臨床心理士の系譜に連なる組織としての色合いが強いです。「日本公認心理師養成機関連盟」は独立した団体ではありますが、HPの関連リンク集を見ると、職能団体として「日本公認心理師協会」、「日本臨床心理士会」のリンクがあり、これらと協力関係にあることがうかがえます。右側の勢力は「臨床心理士」系列といえるでしょう。

 2派の分断は、「日本心理学会」系と「臨床心理士」系の勢力争いという構図がみてとれます。

分断の背景(試考)

 なぜ2派に分裂しているのか?その歴史をたどっていくととても長くなるので、2005年の「二資格一法案」の頓挫から公認心理師法成立までの期間をみてみます。
 この期間の動きについては丸山(2016)が分析しており、本稿もこれを参考にしています。

1)二資格一法案
 2004年9月に、「全国保健・医療・福祉心理職能協会」(2019年5月25日解散)を中心に、
医療領域での心理職の国家資格制度創設を目的とする「医療心理師国家資格制度推進協議会」(推進協;現「医療保健福祉領域公認心理師推進協議会」)が設立。推進協の支持により、2005年2月に「医療心理師(仮称)国家資格法を実現する議員の会」(超党派議員連盟)が立ち上がる。

 これらの動きを受けて、2005年3月に「日本心理臨床学会」を中心に「臨床心理職国家資格推進連絡協議会」(推進連;現公認心理師制度推進連盟を設立。同年4月に「臨床心理職の国家資格化を通じ国民の心のケアの充実を目指す議員懇談会」(超党派議員連盟)が立ち上がる。
 2つの議員連盟の調整により、2005年7月に二資格一法案(「
臨床心理士及び医療心理師法案」)としてまとまる。しかし、各党で了解を取り付ける段階で自民党内での調整ができず、法案は保留された。

2)公認心理師法案まで
 心理学系学会の連合組織である一般社団法人日本心理学諸学会連合」(日心連)では、保留された国資格化に関する資料を各学会で検討し、積極的に関与していく方向を決めた。2007年1月には、法案の臨床心理士にかかわる部分に反対している医療関係諸団体のうち「日本精神科病院協会」の代表者と日心連代表者との間で話し合いの場を設けている。2008年12月には、日心連として二資格一法案を支持していく案が理事会で決定され、推進連と推進協の調整をするため、日心連を含めた三団体会談を呼びかけることとなった。
 三団体会談では当初、二資格一法案の成立を目指したが、実現が困難であることが共有され、実践系の汎用資格としての国家資格化(一資格一法案)へと合意形成が進んだ。その結果、2011年10月に三団体要望書として「公認心理師(仮称)」を示した。
 2012年6月には自民党議連、8月には民主党議連が改めて立ち上がり、
同年7~8月にかけて、三団体関係者、若手議員、関係省庁、衆議院法制局による実務者会議が開催され、国家資格化に向けた論点整理が進められた。その後も自民党議連を中心に法案の具体化が進み、各政党内での法案承認がなされ2014年6月16日、第186回通常国会に法案が提出された。

3)三団体会談について
 以上の流れを見ると、推進連(臨床心理士派)と推進協(医療心理師派)の間の調整を日心連が行う形で結成された三団体会議は、心理学界をとりまとめる上で非常に大きな役割を果たしたと思います。
 また、現在公認心理師の指定試験機関・指定登録機関となっている「一般財団法人日本心理研修センター」の設立にも、この三団体が中心となって関わっています。公認心理師法が公布された後も、公認心理師カリキュラム等検討会など、公認心理師の制度設計にも貢献しています。
 三団体の構成については下図のようにまとめました。これだけの団体が国家資格化のために団結したというのはすごいことです。


三団体会談の現在

 せっかくまとまったのに、なぜ今、また分断が起こっているのか?三団体会談のHPをみると、2017年04月29日付の公認心理師カリキュラム等検討会への要望書提出で更新履歴が止まっています。2017年9月には公認心理師法が施行されているので、法施行後の動きはどうやらなさそうです。
 では各団体についてはどうでしょうか。

1)推進連
 現在は「
公認心理師制度推進連盟」と名称を変更して活動しているようです。HPを見る限り、公認心理師関連の情報を掲載しているのみで、推進協自体の近年の活動については掲載されていません。「日本公認心理師協会」のHPでは、協力・協賛団体としてリンクが貼られています。

2)推進協
 推進協はHPが見当たらず、公認心理師法成立後は「
医療保健福祉領域公認心理師推進協議会」と名称を変更したまでは情報を追えますが、
現状が分かりません。
 検索したら、
令和元年度「児童虐待防止推進月間」実施要綱』というPDF資料の中に、関係団体として名を連ねています。しかし、『令和2年度「児童虐待防止推進月間」実施要綱』(これはまだ厚労省HPからも見ることができます。)では、掲載されていませんでした(令和元年度に引き続き、「公認心理師制度推進連盟」の方は載っています)。
 また、「日本心理研修センター」には「医療保健福祉領域公認心理師推進協議会」を所属元としている役員が居るので、団体としては存続しているものと思います。

3)日心連
 こちらは現在も活動を続けています。他の2団体のように資格化を目指して組織された団体ではないので、本来の活動を続けています。

 三団体会談は、公認心理師法施行後は事実上解散しているのか休眠しているのか、という状態なのかもしれません。もしかしたら、法改正などの動きの際には動き出すのかも?
 資格化を目指して設立された推進協と推進連は、資格化後は名称を変えて、公認心理師制度を推進する団体となったようですが、表立った動きは見られません。

まとめ

 現在の公認心理師関連団体の分断構造を理解する軸の一つに、二資格一法案時代からの推進連と推進協の分断の流れを考えることができます。資格化のために三団体会談としてまとまったのに、その団結は一時的なもので、目的を達成したらまた分裂してしまったというストーリーになるでしょう。
 ただ、推進協はもともと医療分野での資格化(医療心理師)を目指していた団体であり、現在も「医療保健福祉領域」と名称に冠しているように、汎用性というよりも領域限定に寄っている印象です。「公認心理師の会」をみると(HP開設当初は医療分野に寄っていたが)現在規定されている5分野を対象にして活動をしています。
 「公認心理師の会」HPでの連携団体として掲載されている「日本心理学会」、「日本認知・行動療法学会」、「日本認知療法・認知行動療法学会」(旧・日本認知療法学会)はいずれも推進協加盟団体なので、「公認心理師の会」もどちらかと言えば推進協寄りなのでしょうが、推進協とどこまで連携体制を持っているのかは公開情報からでは分かりません。
 現在の分断構造を理解するには、他の軸での理解も必要になると思います。

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