2021/08/26

日本公認心理師協会の認定資格制度についての私見③

 ではわりと批判的な私見を述べました。
批判だけじゃなんかアレなんで、好意的な意見も述べてみようと思います。

コンピテンシーモデルに基づいてるよ

日本公認心理師協会HP「公認心理師の生涯学習制度について」の下の方に、「専門認定に関するQ&A」pdfへのリンクがあります。

このQ&Aの「Q3.専門認定制度はどのように検討されましたか?」の回答に
『公認心理師として求められる基盤コンピテンシーと機能コンピテンシーについてのモデルに基づく、生涯研修に関する基本的事項を提案し、理事会で承認されました。』
とあり、それに基づいて認定制度を作ったようです。

コンピテンシーについては 「Q6.専門認定では、どのような専門性を目指していくのでしょうか? 」に詳しく回答があります。コンピテンシーは「好ましい行動特性」のことのようです。
概略すると
〇基盤コンピテンシー
 ・基本的姿勢
 ・反省的実践
 ・科学的姿勢
 ・相談関係
 ・倫理と法的基準
 ・文化的多様性
 ・多職種協働
〇機能コンピテンシー
 -基本業務
 ・心理的アセスメント
 ・心理支援
 ・コンサルテーション
 ・心の健康教育
 -展開業務
 ・マネジメントやコーディネーション
 ・養成や教育
 ・緊急支援
 ・研究
このように公認心理師に必要な専門性を整理しました、という事ですね。

生涯学習制度と専門認定制度は、コンピテンシーに基づいて設計されている、という事らしいです。それによって『職業的発達の中で確実に高め、要支援者に対して質の高い支援を行っていく専門性を着実に身につける』ことをねらいとしているんですね。

つまり、ただ単にたくさん研修受けましょうというのではなく、必要な能力を、段階に応じて、バランスよく身につけていきましょうという考え方ともいえると思います。

公認心理師という国家資格ができる前は、臨床心理士という資格を取得している人が最も多かったのですが、その資格の認定元の日本臨床心理士資格認定協会、資格者の団体である日本臨床心理士会及び都道府県臨床心理士会などでも、いろんな研修を行ってきました。
(今も存在して活動しているので、「いました」よりは「います」の方が適切かも)

ただ、これらの研修は、それぞれが独立していて、研修間の結びつきはあまりありませんでした。
もちろん、研修ごとの目的やねらいはありますが、その背景には上記の職業発達モデルのようなグランドデザインはなかったように思います。

今回の専門認定制度と照らし合わせれば
「テーマ別研修」しかなかったところに、「導入研修」、「専門研修Ⅰ・Ⅱ」、「エキスパート研修」というチェックポイントを置いて職業発達の道筋を示した
ということになりますね。

業界内の研修制度としては、一歩前進できたんじゃないかと、個人的には思います。

分野横断的な視点を持った制度だよ

専門認定に関するQ&Aの「Q7.専門認定は、分野に特化した専門性を目指すのでしょうか? 」の回答に
『どの分野で働く公認心理師にとっても、またどのような活動をしていても求められる土台となるコンピテンシーを専門性として考えます。』
とあるように、基本的には分野や業務に左右されない、根幹的な能力(行動特性)について認定をする制度のようです。

他職種の専門資格や上位資格は、特定の業務領域に特化した認定制度が多いのですが、日本公認心理師会のこの専門認定制度はそうではないようです。
(「認定専門指導公認心理師」では特定分野をカッコ書きで付けられるようですが)

そもそも公認心理師自体が「保健医療、福祉、教育その他の分野」(法第2条)と幅広い分野での活用を想定した汎用性の高い資格です。
それぞれの分野ごとに求められる能力や働き方はあるでしょうけど、分野ごとの資格として作らなかったのは、分野を超えて共通する部分、直接関わりは薄くても知っておくべき部分があるからでしょう。

養成課程を修了して資格を取得して、就職した先で求められるのは、その職場の業務に特化した能力(「分野特化的専門性」というらしいです)が目につくと思います。
でも、そうした能力を獲得し発揮していくためには、根幹となる能力を磨かないといけないよね、という考え方が「分野横断的専門性」ということでしょう。
それぞれの領域やテーマに特化したスペシャリティを身につけるための土台部分と考えてもよいかも知れません。

こうした研修や認定を職能団体である日本公認心理師協会がやってるの?専門認定資格といったらスペシャリティの認定じゃないの?と思う人もいるかもしれません。
でも公認心理師の場合、根幹部分の教育を職能団体がやらないとその機会が得られない事が多いのです。

医療機関対象の調査ではありますが、「公認心理師の養成や資質向上に向けた実習に関する調査」では、⼼理職の総数が1〜2 ⼈のみの施設が49.3%であり、常勤者に限ると0 ⼈または1 ⼈のみの医療機関が53.0%とあります。
基本的、根幹的な部分の卒後教育を先輩や上司から受けるという事がなかなか難しいというのが現実です。
また、後輩や部下もいないので、後進育成のための指導についても機会が得られないとか、中堅以降の職業発達についても機会はかなり制限されます。

先輩から後輩へ、上司から部下へ、他職種なら職場内で当然やっている教育が、公認心理師ではなかなか難しい。
なので、職場外ではありますが、職能団体がそうした内容の研修機会を設けるというのは、非常に意義がある事だと私は考えます。

課 題

今回は批判ではなく、ポジティブに評価できる点を挙げてみました。
別に無理に褒めてる訳ではないですよ。これまでの心理職業界に足りなかったところを制度化しようという試みについては素直に良いことだと考えています。

今回書いてみて、私のスタンスは、「生涯学習制度」については賛成、「専門認定制度」は時期尚早に過ぎる、という感じなんだなと確認できました。

もちろん、生涯学習制度についてもこれで完成されたものとは思えないし、今後も内容の検討吟味、実施方法なども検討していく必要はあると思います。

課題としては、せっかく作るんなら、ちゃんと知ってもらって業界内で共有しましょうよ。という点ですね。
たとえイイモノとしてブラッシュアップしていっても、知られて活用されなきゃ意味がないですよ。

前述しましたが、臨床心理士の団体は30年以上の歴史がありますが、こうした生涯学習を制度化する事はしてきませんでした(せいぜいが5年ごとの更新がある程度)。
このコンピテンシーモデルは特定の分野に特化しない、心理支援職としての共通の発達基盤的なものですので、公認心理師だけでなく、心理支援職で広く共有して活用してもいいんじゃないか思います。
「公認心理師の会」というもう一つの職能団体も、専門資格を作ろうとしているようですが、そこでも別のコンピテンシーモデルなどを作ってしまうと、卒後教育が混乱します。

また、「分野特化的専門性」の認定資格なんかは、職能団体ではなく学術団体などでやった方が、ちゃんと専門的な知識や能力を担保できると思うので、学会認定の資格を受ける前提規準として、この職業発達がどの程度まで達しているかを用いるなど、そうした連携もできると思います。

心理学業界は、団体だけはやたらたくさんあるのですが、いまいちまとまりが悪いんですよね。同じ業界なんだから、1つのモノサシに統一しましょうよ。

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日本公認心理師協会の認定資格制度についての私見③

  ① 、 ② ではわりと批判的な私見を述べました。 批判だけじゃなんかアレなんで、好意的な意見も述べてみようと思います。 コンピテンシーモデルに基づいてるよ 日本公認心理師協会HP「 公認心理師の生涯学習制度について 」の下の方に、「専門認定に関するQ&A」pdfへのリンクがあ...