2021/08/26

日本公認心理師協会の認定資格制度についての私見③

 ではわりと批判的な私見を述べました。
批判だけじゃなんかアレなんで、好意的な意見も述べてみようと思います。

コンピテンシーモデルに基づいてるよ

日本公認心理師協会HP「公認心理師の生涯学習制度について」の下の方に、「専門認定に関するQ&A」pdfへのリンクがあります。

このQ&Aの「Q3.専門認定制度はどのように検討されましたか?」の回答に
『公認心理師として求められる基盤コンピテンシーと機能コンピテンシーについてのモデルに基づく、生涯研修に関する基本的事項を提案し、理事会で承認されました。』
とあり、それに基づいて認定制度を作ったようです。

コンピテンシーについては 「Q6.専門認定では、どのような専門性を目指していくのでしょうか? 」に詳しく回答があります。コンピテンシーは「好ましい行動特性」のことのようです。
概略すると
〇基盤コンピテンシー
 ・基本的姿勢
 ・反省的実践
 ・科学的姿勢
 ・相談関係
 ・倫理と法的基準
 ・文化的多様性
 ・多職種協働
〇機能コンピテンシー
 -基本業務
 ・心理的アセスメント
 ・心理支援
 ・コンサルテーション
 ・心の健康教育
 -展開業務
 ・マネジメントやコーディネーション
 ・養成や教育
 ・緊急支援
 ・研究
このように公認心理師に必要な専門性を整理しました、という事ですね。

生涯学習制度と専門認定制度は、コンピテンシーに基づいて設計されている、という事らしいです。それによって『職業的発達の中で確実に高め、要支援者に対して質の高い支援を行っていく専門性を着実に身につける』ことをねらいとしているんですね。

つまり、ただ単にたくさん研修受けましょうというのではなく、必要な能力を、段階に応じて、バランスよく身につけていきましょうという考え方ともいえると思います。

公認心理師という国家資格ができる前は、臨床心理士という資格を取得している人が最も多かったのですが、その資格の認定元の日本臨床心理士資格認定協会、資格者の団体である日本臨床心理士会及び都道府県臨床心理士会などでも、いろんな研修を行ってきました。
(今も存在して活動しているので、「いました」よりは「います」の方が適切かも)

ただ、これらの研修は、それぞれが独立していて、研修間の結びつきはあまりありませんでした。
もちろん、研修ごとの目的やねらいはありますが、その背景には上記の職業発達モデルのようなグランドデザインはなかったように思います。

今回の専門認定制度と照らし合わせれば
「テーマ別研修」しかなかったところに、「導入研修」、「専門研修Ⅰ・Ⅱ」、「エキスパート研修」というチェックポイントを置いて職業発達の道筋を示した
ということになりますね。

業界内の研修制度としては、一歩前進できたんじゃないかと、個人的には思います。

分野横断的な視点を持った制度だよ

専門認定に関するQ&Aの「Q7.専門認定は、分野に特化した専門性を目指すのでしょうか? 」の回答に
『どの分野で働く公認心理師にとっても、またどのような活動をしていても求められる土台となるコンピテンシーを専門性として考えます。』
とあるように、基本的には分野や業務に左右されない、根幹的な能力(行動特性)について認定をする制度のようです。

他職種の専門資格や上位資格は、特定の業務領域に特化した認定制度が多いのですが、日本公認心理師会のこの専門認定制度はそうではないようです。
(「認定専門指導公認心理師」では特定分野をカッコ書きで付けられるようですが)

そもそも公認心理師自体が「保健医療、福祉、教育その他の分野」(法第2条)と幅広い分野での活用を想定した汎用性の高い資格です。
それぞれの分野ごとに求められる能力や働き方はあるでしょうけど、分野ごとの資格として作らなかったのは、分野を超えて共通する部分、直接関わりは薄くても知っておくべき部分があるからでしょう。

養成課程を修了して資格を取得して、就職した先で求められるのは、その職場の業務に特化した能力(「分野特化的専門性」というらしいです)が目につくと思います。
でも、そうした能力を獲得し発揮していくためには、根幹となる能力を磨かないといけないよね、という考え方が「分野横断的専門性」ということでしょう。
それぞれの領域やテーマに特化したスペシャリティを身につけるための土台部分と考えてもよいかも知れません。

こうした研修や認定を職能団体である日本公認心理師協会がやってるの?専門認定資格といったらスペシャリティの認定じゃないの?と思う人もいるかもしれません。
でも公認心理師の場合、根幹部分の教育を職能団体がやらないとその機会が得られない事が多いのです。

医療機関対象の調査ではありますが、「公認心理師の養成や資質向上に向けた実習に関する調査」では、⼼理職の総数が1〜2 ⼈のみの施設が49.3%であり、常勤者に限ると0 ⼈または1 ⼈のみの医療機関が53.0%とあります。
基本的、根幹的な部分の卒後教育を先輩や上司から受けるという事がなかなか難しいというのが現実です。
また、後輩や部下もいないので、後進育成のための指導についても機会が得られないとか、中堅以降の職業発達についても機会はかなり制限されます。

先輩から後輩へ、上司から部下へ、他職種なら職場内で当然やっている教育が、公認心理師ではなかなか難しい。
なので、職場外ではありますが、職能団体がそうした内容の研修機会を設けるというのは、非常に意義がある事だと私は考えます。

課 題

今回は批判ではなく、ポジティブに評価できる点を挙げてみました。
別に無理に褒めてる訳ではないですよ。これまでの心理職業界に足りなかったところを制度化しようという試みについては素直に良いことだと考えています。

今回書いてみて、私のスタンスは、「生涯学習制度」については賛成、「専門認定制度」は時期尚早に過ぎる、という感じなんだなと確認できました。

もちろん、生涯学習制度についてもこれで完成されたものとは思えないし、今後も内容の検討吟味、実施方法なども検討していく必要はあると思います。

課題としては、せっかく作るんなら、ちゃんと知ってもらって業界内で共有しましょうよ。という点ですね。
たとえイイモノとしてブラッシュアップしていっても、知られて活用されなきゃ意味がないですよ。

前述しましたが、臨床心理士の団体は30年以上の歴史がありますが、こうした生涯学習を制度化する事はしてきませんでした(せいぜいが5年ごとの更新がある程度)。
このコンピテンシーモデルは特定の分野に特化しない、心理支援職としての共通の発達基盤的なものですので、公認心理師だけでなく、心理支援職で広く共有して活用してもいいんじゃないか思います。
「公認心理師の会」というもう一つの職能団体も、専門資格を作ろうとしているようですが、そこでも別のコンピテンシーモデルなどを作ってしまうと、卒後教育が混乱します。

また、「分野特化的専門性」の認定資格なんかは、職能団体ではなく学術団体などでやった方が、ちゃんと専門的な知識や能力を担保できると思うので、学会認定の資格を受ける前提規準として、この職業発達がどの程度まで達しているかを用いるなど、そうした連携もできると思います。

心理学業界は、団体だけはやたらたくさんあるのですが、いまいちまとまりが悪いんですよね。同じ業界なんだから、1つのモノサシに統一しましょうよ。

2021/08/23

日本公認心理師協会の専門認定制度への私見②

 の続きになります。
トピックごとのツッコミというか半分揚げ足取りみたいな感じになりますが、思ったことをまたつらつらと。

目 的 ?

日本公認心理師協会のホームページでは、『公認心理師の生涯学習制度について』という見出し(タイトル?)になっています。
「規程」の第1条でも『公認心理師の資質向上と生涯にわたっての職業的発達に資するため』とあるので、専門認定制度は、生涯学習制度の一環として位置づけられてるということですね。

生涯学習、これは必要ですね。公認心理師法第43条にも「資質向上の責務」として定められています。
公認心理師である以上、その資質向上に努めなければなりません。法律にも規定されているんだから、当たり前のことです。

この当たり前の研鑽の一つとして、日本公認心理師協会で『生涯学習制度』をいうのを作ってみたよ、という事でしょう。その学習の成果を示すものとして専門認定の資格を与えるよと。

ただひっかるのが、ホームページにある
『会員が生涯にわたり知識及び技能学習の向上を可能とするために、2021年度より専門認定制度を開始します。』
という書き方です。
いや、単に書き方の問題だと思いますが、「専門認定制度がないと生涯学習は不可能」みたいな。認定制度は生涯学習の手段なの?と感じてしまいます。

別に、認定制度がなくても研鑽はしますよね?生涯学習は可能ですよね?認定されないと研鑽しないワケないですよね?
「お前ら、餌がないと研鑽しやがらねぇだろ」そんなことはないですよね?

日本公認心理師協会の組織図を見てみます。
左の方に「生涯研修委員会」があって、右の方に「専門認定委員会」がありますね。
そう、生涯学習(研修)と専門認定って本来独立したモノですよね。
生涯学習のために専門認定がある訳じゃなくて、専門認定のために生涯学習がある訳でもない。だからこそ委員会も分けているんじゃないでしょうか。
今回の生涯学習制度・専門認定制度は、それを無理にこじつけようとしてる感じがするんです。

だから資格商法とか揶揄されるんだよ

対 象 者

専門認定の対象者は、日本公認心理師協会の「正会員」に限定されるらしいです。
理由としては規程第3条に『本協会倫理綱領の遵守を求めるため』とあります。
いや、専門認定してるのも日本公認心理師協会なんだから、認定者に倫理綱領の遵守を求めたらよいだけの話じゃないですか。
倫理綱領の方を「本協会の会員及び本協会が認定する認定専門~、認定専門指導~はこの綱領を遵守すること」とかに改訂すれば、正会員にしか倫理綱領の遵守を求められないということはないでしょう。

こうした専門認定をエサに会員を増やしたいという意図が透けて見えるのは私だけでしょうか。
更新制のある専門認定なんだから、むしろ会員でなくても認定を受けられるようにして、更新に必要な研修等の費用を会員/非会員で差別化した方が会員増えるんじゃないかな。と思ったりもします。
会員にならないと認定を受けられない。ではなく
間口を広げて、「せっかく認定を受けたから更新しよう、そのためには会員になっておいた方が得だな」と思わせる方がいいんじゃないかな。

まぁ、認定を受けようとするくらいの人だったら、普通に入会するか。

研修の種別

「認定専門公認心理師」の認定を受けるためには

①導入研修:基本知識や生涯研修のあり方などを理解するための研修
②専門研修Ⅰ:実務を行う基盤となる知識と技術の修得するための研修
③テーマ別研修(20単位):分野別、課題別のテーマに関して学修を深めるための研修
④専門研修Ⅱ:より応用的、実践的な力を修得するための研修

の受講が必要です。
5年ごとの更新のためには
テーマ別研修25単位以上の受講が必要です。

そして「認定専門指導公認心理師」の認定を受けるためには

①エキスパート研修:各分野でのエキスパートとして複雑な事例への対応を行う力、実習生や若手の専門家の指導に関する諸課題への指導ができる力、プロフェッショナルポートフォリオの作成に取り組み、自己研鑽の計画を策定する力を養成する研修。
②テーマ別研修(25単位)

の受講と、プロフェッショナルポートフォリオの提出が必要です。
5年ごとの更新のためには
テーマ別研修25単位以上、エキスパート研修の受講とプロフェッショナルポートフォリオの提出が必要です。

テーマ別研修は1単位≒1時間としてだいたいの必要時間数が分かります。分野別・課題別のテーマに関する研修というのも、ようするにこれまでよくあるような研修ということでしょうからイメージしやすいです。

その他はどうかなー。導入研修、専門研修Ⅰの説明だけを見ると、これって養成課程でやる事じゃないの?と思ってしまいます。
資格取得後の受講を前提としているんだから、もちろんそんなことはないと思います、思いたいです。でも、どんな内容なのか具体的にイメージできないですね。どのくらいの時間数なのかも気になるところです。
専門研修Ⅰ『知識と技術の修得するための研修』とあるので、知識だけじゃなくて技術も習得する、となると座学だけじゃなくて演習やワークショップも取り入れるのでしょうか?そうすると、1日で終わるような研修ではないかもしれないですね。専門研修Ⅱ、エキスパート研修となると、内容ももっと深いものになるので、もっと時間もかかるかもしれないなとも思います。

1日数時間の研修で、「はい、知識と技術が身につきましたー!」ってことはさすがにないでしょう。ないと思いたい。
形式としても、一方向的な教授ではなく、双方向的なアクティブラーニングが必要となるでしょうね。そうすると、e-Learningやアーカイブ配信のような形で行うのはあまり適さないかもしれません。リアルタイムで参加する形になるんでしょうね。
そうすると、参加する時間を確保するだけでも結構大変そうだなー。

テーマ別研修を除けば
 ・導入研修
 ・専門研修Ⅰ
 ・専門研修Ⅱ(資格登録後3年目から受講可能)
 ・エキスパート研修(資格登録後8年目から受講可能)
という順で生涯学習が進んでいくようですね。

どうなんかな、、「生涯」学習というには、ステップが少ないような気もしますが。
でもまぁ、認定専門指導公認心理師を更新するにはエキスパート研修を5年ごとに受講する事になるので定期的に内容がアップデートされるのでしょうし、たぶん認定専門指導~の更に上位にも認定資格を作る気もあるのかもしれません。

それと、専門研修Ⅱとエキスパート研修は資格登録後の年数で「受講できる」と制限がかかってるのも気になる所ですね。この年数はどこから出てきたんかな。

エキスパート研修で「指導」という内容も出てくるわけですけど、この認定制度とは別に、公認心理師法施行規則第3条第4項に定める、実習指導者になるための要件は
 ・資格取得後5年以上の実務
 ・文部科学大臣及び厚生労働大臣が定める基準を満たす講習会
なので、エキスパート研修はもう少し早く受けられるようになってもいいんじゃないかと思ったりもします。もしくは、専門研修Ⅱの内容に指導を入れたり。

内容が定かでないので、蓋を開けてみないと分からないことだらけですが、今出てる情報だけだと、生涯学習制度という割には、なんかスッカスカやなぁ、という印象です。

経過措置

認定制度には経過措置があります。
経過措置の対象となるのは、D~Gルートで受験した人のようです。
この措置の理由としては、ホームページで『公認心理師の中には、すでに5年または10年以上の心理専門職としての臨床実務経験を持つ方もいらっしゃいます。』と書かれています。

D~Gルートの中で、それだけの経験を既に持っているというのは
・D1ルート:法施行時点で既に大学院を修了しており既習科目の読み替えができる者
・Gルート:法で定める業を5年以上行っている者(現任者講習会受講も必要)
がほとんどだと思います。
D2~Fルートは、法施行時に在学中だったり、法施行後に大学院又は2号施設に進む人なので、この人たちが既に5年または10年以上の実務経験を持つというのは、いたとしても例外的だろうと思います。

一方で、第1回試験から合格者が出ているCルートの人は、この経過措置の対象外という事になっています。
Cルートというのは海外の大学や大学院で心理学を学んだ人を対象とする受験区分です。
日本の大学や大学院ではないけども、A・Bルートと同等以上の内容を学んだという人です。

D~Gは受験資格の特例措置です。
D~Fルートは、既習科目の読み替えを認めて、A・Bルートと同等くらいの事は学んだという事にしましょうというもの
Gルートは、すでに5年以上働いてるんだったら受験資格は与えようというもの

Gルートは現任者措置ですが
C及びD~Fルートというのは、いずれもA・Bルートと同等の事を学んだとみなすという考え方で、大きな違いはありません。
D~Fルートは経過措置の対象となって、Cルートは対象外。これは不公平じゃないかと思います。

何でこんなことになったか。
憶測ですけど、受験資格の特例措置を機械的に認定制度の経過措置に当てはめただけなんじゃないかと思います。

少なくともこの経過措置の部分については
受験資格について良く分かっていない人が、実態を知らないまま、適当に作ったんだな。
と思うし、極めて杜撰だと感じます。

受験区分、実務経験年数の証明は?

経過措置を受けるためには、受験区分が明らかにならなければなりません。
認定専門公認心理師の認定を受けるには、5年以上の実務経験が明らかにならなければなりません。
認定専門指導公認心理師の認定を受けるには、認定専門公認心理師の認定を受けた後の、特定の分野における5年以上の実務経験が明らかにならなければなりません。

これ、どうやって証明するのでしょうか。

「公認心理師の登録を受けてから〇年以上」であれば、資格証に登録年月日は記載されているので証明可能です。
しかし、必要なのは「受験区分」や「実務経験年数」です。

受験区分はどう証明するのでしょう。
実務経験はどう証明するのでしょう。

本人の自己申告だけで審査するのでしょうか。
試験機関である日本心理研修センターに受験区分を問い合わせるのでしょうか。
勤務施設に実務経験年数を問い合わせるのでしょうか、あるいはGルート出願時のように勤務施設の代表者に「実務経験証明書」を作成してもらうのでしょうか。

自己申告で済ませるなら、そもそもそんな基準を設けなければいいのに。
認定要件に「5年以上」とかせずに、必要な研修の受講「目安」として「〇年以上程度」くらいにしておいて、申請者の受講履歴と能力によって審査すればいいんじゃないかな。
そしたら経過措置なんか設けずに済むのに。

ま と め

この制度、ちゃんと考えて作られたのかな?

2021/08/17

一般社団法人日本公認心理師協会の専門認定制度への私見①

前回は「専門認定に関する規程」をざっくりと読み下しました。
今回は専門認定制度について私が思ったことを書きます。

まず最初に、専門認定制度は時期尚早なんじゃないか、と考えます。

理由1.移行措置期間の最中であり登録者のバラつきが多い
現在、正規の養成課程(A・Bルート)を経ている者はまだ居ないので、多くが移行措置の特例で受験資格を得た者(D~Gルート)です。知識面は試験である程度担保できるとしても、技能面ではバラつきが大きいのではないでしょうか。
バラつきを均すための研修等は必要でしょう。そうした研修が今後の生涯学習制度を計画するためにも役立つだろうとは思います。

ただ、認定制度を絡めるのは今はまだ早すぎないか?と思う訳です。

資格登録後〇年以上の経験とか、資格登録時の状態が分からないと計画できないんじゃないかな。
A・Bルートの人が出てきて、養成課程を経て資格取得時の公認心理師の能力はこの程度だね、バラつきはこのくらいの幅だね。そういうのを確認できてはじめて、そこからどうやって研鑽して行こうかと、制度として整えられるんじゃないだろうか?

理由2.公認心理師がまとまってすらいない
こっちの方が理由としては大きいかも。
職能団体も教員団体も分裂しています。心理学の学会は多くあるのに、さらに日本公認心理師協会は内部に「日本公認心理師学会」という学術部会を作って、認定制度に絡めています。

これは先走り過ぎだよ。生涯学習制度にしても専門認定制度にしても、制度として作りたいなら、まずは業界でまとまってからにしましょうよ。

「公認心理師の会」も以前から専門資格認定を掲げているので、あっちでもこっちでもソレっぽい認定資格を作っても、混乱するだけでしょう。分かりやすいどころか、分かりにくくなっちゃうのは目に見えてる。

公認心理師Aさん「『日本公認心理師協会認定 認定専門公認心理師』です」
公認心理師Bさん「『公認心理師の会認定 専門公認心理師』です」
いや、ワケ分からんでしょう。

そもそも公認心理師協会と公認心理師の会だって、一般の人にはわっかんないですよ。

まずは「公認心理師」という資格と存在を広く社会に認知してもらいましょうという段階で、なんで分かりにくくするかなぁ。


と、個人的には反対なんですが、日本公認心理師協会が「やる」と言ってるんだからやるんでしょう。勝手に認定しちゃいけない決まりもないので、認定制度は始まるのでしょう。

次回は、これから始まるその認定制度について、もうちょっと細かい所にツッコミを入れます。

2021/08/06

一般社団法人日本公認心理師協会「専門認定に関する規程」を解説してみる

 一般社団法人日本公認心理師協会が専門認定制度を始めるようです。
HPにも「公認心理師の生涯学習制度について」というページが開設されました。

さて、この制度についてのツッコミはいろいろありますが、まずはこれがどんな制度なのか、公開されている「専門認定に関する規程」をザックリ解説してみます。
以下は『2021年6月 11日理事会改定』版に準じます。

(目 的)

第1条

公認心理師の資質向上と生涯にわたっての職業的発達のために、協会が認定する専門認定について必要な事を決めるよ

(専門認定)

第2条

次の2つの資格を作って、5年ごとの更新制にするよ

(1)認定専門公認心理師
 ・臨床実務に関する基本的素養を身に付けてる
 ・分野横断的な視点をもってる
 ・広く国民の心の健康の保持増進に貢献できる
専門性をもってることを認定するよ

(2)認定専門指導心理師
 ・分野横断的な臨床実務に関する素養を身に付けてる
 ・専門分野の臨床実務に精通してる
 ・国民の心の健康の保持増進のための働きかけができる
 ・心の健康に関わる専門職の人材育成に貢献できる
 ・公認心理師制度の発展に寄与できる
専門性をもってることを認定するよ

(対象者)

第3条

協会の倫理綱領の遵守を求めるから、会員しか認定しないよ

(認定専門公認心理師の認定要件)

第4条

公認心理師の登録を受けた後に①~③を満たしたら、審査をして認定専門公認心理師に認定するよ
 ①5年以上の実務経験
 ②以下の研修の受講
 ・導入研修
 ・専門研修Ⅰ
 ・テーマ別研修 20 単位以上
 ③ ②の後に専門研修Ⅱを受講

(認定専門指導公認心理師の認定要件)

第5条

認定専門公認心理師の認定を受けた後に①~④を満たしたら、審査をして認定専門指導公認心理師に認定するよ
 ①特定の分野における5年以上の実務経験
 ②テーマ別研修 25 単位以上
 ③ ②の後にエキスパート研修の受講
 ④プロフェッショナルポートフォリオを提出

第5条第2項

5年以上の実務経験のある分野を、カッコ書きで付けられるよ
その場合、受講したテーマ別研修の 10 単位以上は,その分野じゃないとダメだよ

(研修の種別)

第6条

研修は5種類あるよ

(1)導入研修
 ・基本的な倫理
 ・公認心理師の職責
 ・法制度等の知識
 ・協会の生涯研修や専門認定制度
を理解するための研修だよ

(2)専門研修Ⅰ
導入研修を終えた人が
 ・実務上必要となる倫理、職責、法制度等の知識を深める
 ・医師等との多職種連携に関する理解を深める
 ・自分で研修計画を検討して、実務を行う上での基盤となる知識と技術を修得する
ための研修だよ

(3)専門研修Ⅱ
専門研修Ⅰを終えた人が公認心理師登録後3年目から受講できるよ
 実務上必要な倫理、職責、法制度等の知識を用いて/複雑な事案について/医師等との多職種連携も含め/複数分野にわたる特徴を理解し対応する
ための知識と技術を修得するための研修だよ
自分で研修計画を検討して、応用実践力を修得することを目指すよ

(4)エキスパート研修
公認心理師登録後8年目から受講できるよ
 各分野でのエキスパートとしての立場があって/その分野における複雑な事案について/倫理や職責、医師等との多職種連携も含め/十分に対応する
ための高度な応用実践力を修得するための研修だよ
学生や後輩の指導をできるようになることも目指すよ
プロフェッショナルポートフォリオにも取り組んで、自分で自己研鑽計画を作れるようになることも目指すよ

(5)テーマ別研修
分野や課題別にテーマを設定するよ
 ・分野別:保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働
 ・課題別:発達障害、災害、自殺、ひきこもり、アディクションなど
 ・分野共通:心理アセスメント、心理面接、コンサルテーション
基礎的か応用的を示して、受講者が自分のレベルにあった研修を選べるようにするよ

(テーマ別研修の単位認定)

第7条

次の2つにテーマ別研修の単位を認めるよ
 ・協会が開催する研修
 ・他団体が申請して、協会が認めた研修

第7条第2項

1時間で1単位だよ(30分ごとに0.5単位認めるよ)
1日に取得できるのは5単位までだよ

(日本公認心理師学会大会の特例)

第7条の2

日本公認心理師学会大会に参加したら、テーマ別研修の単位を認めるよ
 (1)研究発表 (筆頭発表者2単位 共同発表者1単位)
 (2)所定のプログラムを受講 (上限5単位)
 (3)参加しただけ (2単位)
(2)と(3)はどっちか一つを認めるよ
1つの大会で認める単位は全部で7単位までだよ

(更 新)

第8条

次の条件で5年ごとに更新するよ

(1)認定専門公認心理師
 ・専門研修Ⅱの受講
 ・テーマ別研修の受講(25 単位以上)

(2)認定専門指導公認心理師
 ・エキスパート研修の受講
 ・テーマ別研修の受講(25 単位以上)
 ・プロフェッショナルポートフォリオの提出

(規程の改廃)

第9条

この規程の改廃は、理事会できめるよ

経過措置

(導入研修)

附則第1条

導入研修は、しばらくの間は協会の作るテキストで自習してね

認定公認心理師の経過措置
※原文ママ

附則第2条

D~Gルートで公認心理師の登録を受けた人で、登録前を含めて5年以上の心理専門職としての臨床実務経験を持つと協会が認めた人は、専門研修Ⅰを受講すれば、登録後3年経ってなくても専門研修Ⅱを受講できるよ

附則第2条第2項

認定専門公認心理師の認定をうけるには
 D・Eルート:大学院修了後5年以上の臨床実務経験
 Fルート:2号施設での実務経験終了後5年以上の臨床実務経験
が必要だよ

附則第2条第3項

この経過措置は、D~Gルートの人だけだよ

(認定専門指導公認心理師の経過措置)

附則第3条

認定専門公認心理師のうち、公認心理師登録前から合わせて10年以上の心理専門職としての臨床実務経験を持つと協会が認めた人は、公認心理師後8年経ってなくてもエキスパート研修を受講できるよ

附則第3条第2項

認定専門指導公認心理師の認定を受けるには
 D・Eルート:大学院修了後10年以上の臨床実務経験
 Fルート:2号施設での実務経験終了後10年以上の臨床実務経験
が必要だよ

附則第3条第3項

この経過措置は、D~Gルートの人だけだよ

(テーマ別研修への振替可能な学会大会)

附則第4条

経過措置でのテーマ別研修の単位認定に振り替えられる学会大会は、当分の間は、振替申請をして協会が認めた学術団体が行う学会大会にするよ

附則第4条第2項

学会大会参加での単位認定は、何日かにわたる開催期間でも、1大会で2単位だよ。
ただし、大会と別日程で開催する研修は規程第7条に従って認定するよ

附則第4条第3項

大会参加による振替単位は、10単位までだよ

以上


2021/06/21

公認心理師の受験資格と「スキマ世代」問題

 以前から気にはなっていたので、受験資格と所謂「スキマ世代」について考えてみます。

「スキマ世代」とは?

 公認心理師の受験資格の特例措置に該当せず、受験資格を得られなかった方々がいます。この方達は、特例措置制度の隙間に落ちてしまった世代として「スキマ世代」と称されています。この問題を扱う SUKIMA GENERATIONS というサイトもあります。
 また、「SUKIMA GENERATIONS」では、各団体や国に当事者の声を伝えるべく、当事者向けのアンケート調査を実施しています。

「公認心理師受験資格を得られなかった方へのアンケート」https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeJcsZIJWss3MPf3tL4jIhZFyyI-Bc5nkb6FnDM9jLR79lwxA/viewform?gxids=7628

アンケート回答期間:第二締切6月末ごろ

 以下では、制度の隙間とは何なのか、公認心理師の受験資格(主に特例措置)を確認しながら考えてみます。

公認心理師の受験資格

基本の受験資格
 公認心理師の本来の受験資格は「公認心理師法」第7条に定められています。

第7条 試験は、次の各号のいずれかに該当する者でなければ、受けることができない

 学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づく大学(短期大学を除く。以下同じ。)において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業し、かつ、同法に基づく大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めてその課程を修了した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者

 学校教育法に基づく大学において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第2条第1号から第3号までに掲げる行為の業務に従事したもの

 文部科学大臣及び厚生労働大臣が前二号に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認定した者

 1号から3号がそれぞれ受験区分のA~C ルートと呼ばれるものです。1号と2号(A,B ルート)は法の施行後に大学に入学、3号(C ルート)は海外の大学等で学んだ者を想定しているので、「スキマ世代」の問題とはあまり関係しません。

受験資格の特例措置
 A,B ルートは法施行後大学に入学する者のルートですが、法の施行の際にすでに現場で働いている人、大学・大学院で学んでいる人があらためてこの受検資格を満たそうとするのは大変です。
 そこで、受験資格の特例措置として、法附則の第2条で、受験資格の特例措置を定めています(下線部筆者。【 】内は筆者挿入、いわゆる受験区分を示した)。

第2条 次の各号のいずれかに該当する者は、第7条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。

【D1 ルート】 
 この法律の施行の日(以下この項及び附則第6条において「施行日」という。)前に学校教育法に基づく大学院の課程を修了した者であって、当該大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めたもの
【D2 ルート】
 施行日前に学校教育法に基づく大学院に入学した者であって、施行日以後に心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて当該大学院の課程を修了したもの
【E ルート】
 施行日前に学校教育法に基づく大学に入学し、かつ、心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、施行日以後に同法に基づく大学院において第7条第1号の文部科学省令・厚生労働省令で定める科目を修めてその課程を修了したもの

【F ルート】 
 施行日前に学校教育法に基づく大学に入学し、かつ、心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、第7条第2号の文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において同号の文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第2条第1号から第3号までに掲げる行為の業務に従事したもの

【G ルート】
  この法律の施行の際現に第2条第1号から第3号までに掲げる行為を業として行っている者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、次の各号のいずれにも該当するに至ったものは、この法律の施行後5年間は、第7条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。

 文部科学大臣及び厚生労働大臣が指定した講習会の課程を修了した者

 文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において、第2条第1号から第3号までに掲げる行為を5年以上業として行った者 

  (省略)

 さらに、下線を引いた「その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者」については省令である公認心理師法施行規則の附則に定めています。

第4条 法附則第2条第1項第3号及び第4号の文部科学省令・厚生労働省令で定める者は、次のとおりとする。

 平成29年9月15日より前に学校教育法による大学に入学した者であって、当該大学において前条に定める科目を修めて同法第102条第2項の規定により大学院への入学を認められたもの

 平成29年9月15日より前に学校教育法による専修学校の専門課程において文部科学大臣が定める日以後に前条に定める科目を修めて卒業した者

第5条 法附則第2条第2項の文部科学省令・厚生労働省令で定める者は、次条に定める施設で適法に法第2条第1号から第3号までに掲げる業務を業として行っていた者であって、平成29年9月15日において当該業務を休止し、又は廃止した日から起算して5年を経過しないものとする。

 第4条の1号は、いわゆる飛び級制度(大学を卒業せずに大学院に進学する)について。大学で必要な科目を修めていれば、飛び級進学しても(学部を卒業していなくても)受験資格を認めるというもの。

 第4条の2号は、大学でなくても、文科大臣が指定した専門学校でも受験資格を認めるというもの。

 第5条は、法施行日(平成29年9月15日)時点で休業(休職)や廃業(退職)していたとしても、休業・廃業の日から施行日までに5年経っていなければ、受験資格を認めるというもの。

「スキマ」はどこにあるのか?

 受験資格の特例措置は文章だけだと、とても分かりづらいので図に示します。まずは附則第2条第1項の各号(D~Fルート)。

D ルートについて

 D ルートは、法施行日(2017年9月15日)に大学院を修了している(D1)か、大学院に在籍している(D2)方が対象です。大学院で修めた科目が公認心理師に必要な科目を満たしていれば受験資格を得られます。D ルートの場合、学部での履修科目は問われません。

 必要な科目は以下になります。

 正規の大学院カリキュラム(A ルート、E ルート)では、上図の掲載された科目を全て修めることが必要です(実習の時間数の既定もアリ)が、既に大学院を修了または在籍中のD ルートは、(2)と(3)からは2科目以上修めればよいとなります。
 また、上図掲載科目は法施行日以前にそのままの形で開講されていたとは限らないので、内容として当該科目相当と読み替えられるものを履修していればよいとなります。「公認心理師カリキュラム検討会報告書」では、例として臨床心理士指定大学院における科目との対応が記載されています。

 D ルートに該当するかどうかは、科目の読み替えができるかどうかという点です。
 D1 とD2 の違いは、既に修了しているか否かです。
D1 ルートは既に修了しているので履修した科目が要件を満たしていなければ受験資格は得られません。D2 ルートの場合、読み替え可能な科目を修めているかを確認してから修了するというD1 ルートよりやや柔軟な対応ができます。

 D ルートの「スキマ」としては、科目の読み替えの可否になります。大学院としてもこれまで開講してきた科目が読み替えできるように対応会議に腐心したと思いますが、どうしても対応できないという大学院があったかもしれません。また、選択科目として開講はしていたが、その科目を選択履修していなかったために科目読み替えができなかったというケースも考えられます。
 また、公認心理師法の公布は2015年9月16日です。公認心理師に関心がある2016~2017年度に大学院に進学した方(D2 ルート候補者)は、その大学院が公認心理師を養成する予定があるのか確認して進学したと思います。しかし、カリキュラム等検討会の報告書が出されたのは2017年5月なので、それを受けて「やっぱり養成しません。なので科目読み替えにも対応できません」と梯子を外された方も、もしかしたら居るのかもしれません。

 D ルートに学部で修めた科目の規定はないですが、もしD ルートに該当しなくても、学部で修めた科目が読み替え対応可能であればE ルートやF ルートを目指すことは可能です。もう一度大学院に通うことや指定施設に採用される必要はありますが、学部から入り直すよりは負担は少ない道です。
 D1 ルートの場合、既に修了しているので施行日時点で現場で働いているかもしれません。その場合、G ルートの要件を満たせば受験資格を得られます。D2 ルートの場合、施行日には在学しているので特例措置期間内に5年の実務経験を満たすのは難しいケースが多いでしょう。

E ルートについて

 E ルートの要件は、「その他その者に準ずるもの」を除けば
  ①施行日(2017年9月15日)以前に大学に入学
  ②大学で必要な科目を修めて卒業
  ③施行日以降に大学院に進学
  ④大学院で必要な科目を修めて課程を修了
の全てを満たすことです。施行日に大学を卒業していても在学中でもかまいません。
 学部の科目は読み替え対応可能ですが、大学院は「第7条第1号の文部科学省令・厚生労働省令で定める科目」とあるので、A ルートと同じ正規の養成カリキュラムの科目を修める必要があります。

 E ルートの「スキマ」として考えられるのも、科目の読み替えの可否になります。D ルートと違うのは、学部の科目の読み替えという点です。

 E ルートで必要な科目は以下になります。

 「健康・医療心理学」は(4)、(5)のどちらにも読み替えることが可能なので重複掲載されていますので、23科目のうち、12科目の履修(読み替え)が必要という事です。
 ちなみに、正規のA・B ルートで修める科目は上掲の23科目に「公認心理師の職責」、「関係行政論」を加えた25科目が全て必修です。

 ”特例措置としても、半分以下の履修で受験資格を認めるのは甘すぎるのではないか”と感じる方もいると思います。
 しかし、上掲23科目を見れば分かるように、「心理学」といってもその対象や領域は非常に広汎です。また、「心理学科」や「心理学専攻」として専ら心理学を修める学科であれば上掲科目の多くをカバーできるでしょうが、「人間科学科」や「コミュニケーション学科」のように心理学を含む学際領域の専攻コースも日本には結構あります。
 特例措置としてどこまでを認めて線を引くか、厳しすぎれば受験できない人が多く出てしまう、あくまで受験する資格を与える基準という事で、上掲12科目以上に落ち着いたのだと考えられます。

 学部での履修科目(読み替え)が足りないと、大学院で必要な科目を履修しても受験資格は得られません。
 既に卒業していた場合は学部に入学し直さないといけなく、その場合の多くは法施行後の入学となるので、A・B ルートとして必要科目を
フルで履修しないといけなくなるので、非常に大変です。
 在学中であれば、卒業せずに(留年して)必要科目を修めてから卒業という、既卒者よりは選択肢が多いですが、その分学費はかかるし、そもそも大学で必要科目が開講されていなければどうにもなりません。

F ルートについて

 F ルートについてはほぼE ルートと同じです。法施行後に大学院ではなく、実務経験プログラムを実施する指定機関でプログラムを終了する、という点が異なるだけです。

G ルートについて

 G ルートの受験資格を整理すると
  ①法施行日(2017年9月15日)に業を行っている
  ②現任者講習を受講する
  ③5年以上業を行っている
の全てを満たすことが特例措置の基本となります。
 さらに、特例措置の特例として、①については法施行日に休業・廃業していても、5年経っていなければ認めることになっています。
 これらを合わせると
  ①’2012年9月16日~2017年9月15日の期間に業を行っている
  ②現任者講習を受講する
  ③5年以上業を行っている
の全てを満たすのがG ルートの受験資格ということになります。

 図にすると以下のような感じです。

 G ルートの「スキマ」としては、例8、例9のような場合が考えられます。2012年9月16日~2017年9月15日の期間に業を行っていなければ、それ以前にどれだけ経験を積んできたベテランであっても受験資格は得られません。
 育児・介護・療養などの理由で休業することは珍しくありません。こうした事情への配慮として、法施行日に業を行っていない者への特例が定められたものと考えます。1つの理由で5年以上休業することは稀かもしれませんが、複数の理由が重なる、あるいは続くと休業が5年以上になることもあると思うので、そうした事情で受験資格を得られないという方は居るのではないでしょうか。

 また、特例措置の中でも、法附則第2条第1項各号(D~F ルート)には措置期間の定めはないのですが、法附則第2条第2項(G ルート)には、「この法律の施行後5年間は、(中略)試験を受けることができる。」と措置期間が定められています。
 例えば、2017年3月に心理系大学院を修了し4月から心理職として働き始めた人の場合、大学院で修めた科目でD1 ルートの受験資格が得られれば良いですが、そうでない場合はG ルートでの受験資格となります。G ルートで実務経験5年を満たすのは2022年となるので、受験ができるのは第5回試験1回のみ、という事になります。
 また、国家試験の試験委員は任期中と任期後1年は受験できないそうです。こうした方々の中には、大学院で学んで結構な年月が経過していて科目読み替えができずG ルートで受験するしかない、という方も居ます。このように、経験年数は充分であっても受験機会は限られる場合もあります。

その他の「スキマ」

 受験資格の特例措置について、誰を救済するための措置かという視点で見ると

 D~F ルート:公認心理師となるために必要な科目(読み替え)を既に修めた者あるいは履修中の者(≒心理学を学んだあるいは学んでいる途中の者)

 G ルート:公認心理師が行う業を現に行っている者

を対象としていることが分かります。
 これまでは、こうした特例措置制度の「スキマ」から零れ落ちるのはどのような場合かを見てきました。
 ここでは、そもそも措置対象として想定していなかったであろう部分について考えます。

 想定の外なので、上記のどのルートでもないパターン、つまり法施行時点で
  ①公認心理師となるために必要な科目の多くを履修していない(履修中でもない)
  ②公認心理師が行う業を行っていない
のどちらにも該当するパターンです。
 ”勉強もしていない、経験もない。どうして受験資格を与える必要があるんだ”との考えはあると思います。現に制度としても受験資格は与えられていません。

 これがどういう人なのかというと、”学部では心理学を専攻していないが、大学院は心理系に進学し、将来は心理職として働こうと考えていた”というパターンです。

 これまで日本における心理系資格で、所持者も多く、一定の社会的信用を得ていたものに、「臨床心理士」という資格があります。公認心理師ができる以前は、心理職として働くために臨床心理士資格取得を目指すという人が多かったです。
 この「臨床心理士」は、日本臨床心理士資格認定協会が指定した大学院・専門職大学院で養成する制度であり、学部での専攻は問われません。「学部では心理学以外を専攻した臨床心理士」という方は、臨床心理士全体に占める割合でみると少ないと思いますが、実数としてはそれなりに居ます。
 学部では心理学以外の学問分野を学び(又は、心理学専攻に進めなかったけど)、大学院は指定校に進んで臨床心理士取得を目指す。そういう進路を計画していた方もいるでしょう。
 指定大学院に進学すれば当初の計画通り臨床心理士受験資格は問題なく取得できますが、公認心理師の受験資格は得られない。目的は臨床心理士という資格を得ることではなく、心理職として働くことなので、働く上で国家資格がないことでどのくらい不利になるか、実際は分かりませんが不安は感じると思います。当人としては、”これまで描いていた進路がいきなり閉ざされた”という体験に近いのではないかと想像します。

 特例措置というのは、基盤となる本来の養成カリキュラム(A・B ルート)があってのものです。学部+大学院(or 実務プログラム)の標準6年間で心理学を学び訓練するプロセスを想定しているので、法施行時点で学部で心理学を学んでいない者を特例の対象と考えないのは論理として理解できます。
 しかし、本稿で述べたようにD ルートも学部での履修科目は問われていません。D ルート受験者の中にも、学部では心理学以外を専攻した人(心理学科目を履修していない人)はいます。

 辿る過程は同じでも、法施行日に大学院に進学していたか否か、という違いで受験資格が得られなかった。という見方もできます。

情報は得られていたか?

 公認心理師法は、2015年9月9日成立、同月16日に公布されました。この時点で法附則に定められた特例措置(D~G ルート)の大枠は知ることができました。
 「公認心理師となるために必要な科目」や「その他その者に準ずるもの」の詳細は未定の段階ですが、法施行日は法附則に「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定められているので、遅くとも2017年9月15日までには施行されることは分かります。カリキュラムの整備などを考えると、だいたい2017年4月~9月の間に施行されると予測するだけの情報は提示されていたともいえます。

 ただ、こうした情報をどのくらいの方が得ていたでしょうか?もちろん法律は公のものなので、誰でも見ることができます。しかし、存在を知らなければそもそもどうにもなりません。

 2015年~2017年の間に大学や大学院に在籍していた方は教員等から情報が入ったと思います。既卒でもD1 ルートやG ルートに該当する方は既に心理職として働いている人が多いので、職能団体や同業者のネットワークを通じて知る機会があったかと思います。
 一番情報を得にくかったのは『その他の「スキマ」』に該当する、心理系以外を専攻する学部生だった方々ではないかと考えます。
 2015年度以前の入学であれば、大学進路決定時に公認心理師法はできていませんでした。大学院は心理系に進もうと思っていても、院進学準備を始めるまでは現在在籍している専門分野の勉強に専念していたとも思います。そうすると、公認心理師法の情報もなかなか入ってこなかったかもしれません。
 施行が予想される2017年度には大学院に進学できている可能性があれば、学部の履修科目不問のD2 ルート受験の可能性が残りますが、2014,2015年度入学の層は2017年度は学部の3年生、4年生なので、E・F ルートとして学部での履修科目も満たす必要があります。
 また、受験資格の要件は「科目を修めて」なので、心理学を専攻する学部・学科等に在籍している必要はありません。しかし、実験や演習等の科目では心理学科等の専攻者のみに受講を制限している大学もあり、必要な科目を履修するためには心理学専攻へ編入する必要があったかもしれません。

 ”将来心理職を目指し、心理系大学院へ進む計画はあるが学部は心理以外を学ぶ”という人たちの中で、2013年以前に大学入学した層はDルート受験に乗れる可能性がありました。2016年度入学以降は、大学受験の際に公認心理師についての情報を得てから進路決定していると考えられるので、心理学を専攻できる学部・学科を受験したと思います。
 『その他の「スキマ」』としましたが、2014・2015年度に大学進学した学年に、このスキマに陥ってしまった方が多いのではと考えます。

救済はあるのか?

 公認心理師に限らず、国家資格ができると現任者や既修者への救済のための特例措置が設けられてきました。そして全員が救済されたかというと、様々な資格で「スキマ」に陥ってきた人はいると聞きます。国としても、「特例措置でも受験資格に零れてしまう者が出る」事は織り込み済みで、仕方のないことだとしているのではないか。当事者からしたらたまったものじゃないけど、そういう姿勢なのかなと考えます。個別に受験資格の判断をするのはコストがかかりすぎるので、どこかで線引きをしないといけないという事でしょう。

 とはいえ、本稿で扱ったとおり、公認心理師の特例措置は非常にややこしいです。大学+大学院(or指定施設での実務プログラム教育)という、他の国家資格ではなかなか見かけない2段階養成(一つの施設で完結するルートが存在しない)制度に起因していると考えます。

 特例措置で受験資格が得られなかったという人が想定よりも多く、不利益が大きいとみなされれば、検討の俎上にあがるかもしれません。ただ「受験資格を得られなかった人がいる」というだけでなく、「どのような事情」で「どのくらいの人」が受験資格を得られなかったのかという実態を示す必要があると考えます。

 実態を示すためには、個々人が管轄省や試験実施機関に訴えるよりも、どこかが取りまとめて示す方がスムーズです。冒頭で紹介した、「SUKIMA GENERATIONS」のアンケートがこうした活動に該当します。
 心理職になるために勉強してきた、心理支援を行ってきた、それなのに公認心理師の受験資格が得られなかったという方、こうした活動に参加・協力するのはいかがでしょうか。
 また、そうした境遇の方が身近にいる、という方は該当者への情報提供をお願いしたいと思います。

アンケートについて再掲します

「公認心理師受験資格を得られなかった方へのアンケート」https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeJcsZIJWss3MPf3tL4jIhZFyyI-Bc5nkb6FnDM9jLR79lwxA/viewform?gxids=7628

アンケート回答期間:第二締切6月末ごろ

2021/05/07

心理学界の分断の歴史考(後半)

 (前半)では1960年代~1980年代の流れを大まかに追いました。今回はその後半部分です。
 1990年代以降、「臨床心理士」がその勢力を拡大していきますが、国家資格をめぐっては他の団体も関わって議論が活発になされました。時系列に沿ってそれぞれの動きを記すのが大変なので、書き方を(前半)とは少し変えます。

「臨床心理士」をめぐる動き

スクールカウンセラー(SC)市場の獲得
 前半記事でも触れたが、「日本臨床心理士資格認定協会」は1990年に文部省(当時)管轄の財団法人となった。大学院改革や、学校現場のいじめや不登校の増加への対策としてのカウンセラー養成という点で利害の一致がみられたゆえと思われる。
 1994年には「スクールカウンセラー配置調査研究補助事業」として文部省が予算提出し、臨床心理士団体は全国的な臨床心理士派遣体制を整える方向で対応した。1995年に「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」が開始され、当初154校136名の派遣から2000年には2250校1935名派遣にまで拡大した。2001年からは「スクールカウンセラー活用事業補助」となり、臨床心理士はスクールカウンセラー市場を獲得していった。

 スクールカウンセラーとしての資格要件として

1)財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
2)精神科医
3)児童生徒の臨床心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、教授、助教授又は講師(常勤に限る)の職にある者

とされ、2001年からは「スクールカウンセラーに準する者」として「心理臨床業務又は児童生徒を対象とした相談業務について一定の経験を有する者」について、都道府県・指定都市が選定し配置することも可能となるが、スクールカウンセラーの市場の多くを「臨床心理士」が占めることが続いた。

指定大学院制度の実施
 臨床心理資格の認定は、当初は現任者の書類審査から始まり、1992年からは心理系大学院修士課程修了者(心理学隣接諸科学専攻を含む)を受験資格の基本とする(学部卒後5年の実務経験者にも受験資格は与えられた)筆記・面接試験制度の導入が始まった。
 受験者数の増加に伴い、審査過程の円滑化と養成システムの改善を目指し、「臨床心理士資格認定協会」は、認定協会の指定を受けた大学院修了者を受験資格の基本とする「指定大学院制度」を1996年から開始した。
 スクールカウンセラーの需要の高まりを受けた文部省も、大学設置・学校法人審議会大学設置分科会にて
設置審査の抑制に関する例外措置に「スクールカウンセラー(臨床心理士等学校臨床心理に関する高度の知識,経験を有する専門家)」の養成に係るものを追加し、臨床心理士の養成機関の増加を支援した。1996年の制度開始時には20校に満たなかった指定大学院は急速に増え、10年後の2006年には160校近くにまでなった。

 指定大学院制度の当初の基準として

<第1種指定の場合>

①専攻課程の名称は、原則 として臨床心理学(心理学・行動(科)学を含む)、心理臨床学、発達臨床学、臨床教育学、のいずれかによる。
②担当教員は、「臨床心理士」 の資格取得者5名以上で、かつ専任教員は、3名以上とする。非常勤講師は、年単位で0.5名として換算できる。
③臨床心理実習を適切に行うことが可能な当該大学(院)付属心理・教育相談室、またはこれに準ずる施設を有すること。
④修士論文のテーマと内容は、臨床心理学に関するものであること。

<第2種指定の場合>

 ①専攻課程の名称は、人間科学、人間関係学、教育学、児童学、社会学、発達科学および健康科学のいずれかによる。
②担当教員は、 「臨床心理士」の資格取得者4名以上で、かつ専任教員は、2名以上とする。非常勤講師は、年単位で0.5名として換算できる。
③臨床心理実習を適切に行うことが可能な当該大学(院)付属心理・教育相談室、またはこれに準ずる施設を有すること。但し、「準ずる施設」 とは、当該大学に組織上直接編成されていない場合も考慮されることもある。
④修士論文のテーマと内容は、臨床心理学に関するものであること。

 とされており、大学院の担当教員配置やカリキュラムについての介入、心理学諸学会へ事前の相談なく性急に進めたこと等の批判の声が大学の心理学教員から挙がり、「日本臨床心理士資格認定協会の大学院指定制を考える会」が組織された

「臨床心理士」制度(特に指定大学院制度)をめぐる分断
 心理学は臨床心理学だけでなく様々な領域がある。大学としては無制限に教員を雇用することはできないので、「臨床心理士」有資格教員の配置が増えると、他の領域の心理学教員のポストが減るという事も起こる。十分な話し合いを経ないままの指定校制度導入は、臨床心理士(臨床心理学)とそれ以外の心理学の対立を強化したように思う。
 指定大学院制度によって分断が発生したというよりも、実験心理学と臨床心理学との間以前からにあった軋轢に楔を打ち込んだ形になったのではないか。

日本心理学界協議会
(→日本心理学諸学会連合)

「日本臨床心理士資格認定協会」との協議
 上述のように指定大学院制度の導入は心理学教員の間で大きな話題となった。そこで「日本心理学会」が世話役となり心理学関連学会へ呼びかけ、1996年12月に日本心理学界協議会が結成された。
 第1回協議会には30団体の代表者が参集し、日本臨床心理士資格認定協会の会頭と専務理事らも出席した。協議は「指定大学院制度」に絞って行われた。翌月の第2回協議会では、ワーキンググループをつくって、認定協会とさらに話し合うこととなった。
 ワーキンググループ(資格制度検討委員会)は1997年2月から翌年11月まで、十数回にわたる検討の末、以下のような中間的結論を出した。

 1)心理学界の大多数の賛同が得られ、また社会理解と信任を得ることができ、そして社会へ貢献できる心理学のしかるべき教育を受けた人たちに与える統一資格を目指す。この資格は、将来の国家資格へ向けての準備である。
 2)統一資格には、基礎資格(専門資格を取得するための必要条件、学卒レベル)、専門資格(専門職能資格、修士修了レベル)、高度(特別) 資格(高度の特定技能または高度の職能資格、博士修了レベル) に分けられる。
 3)基礎資格については、しかるべき心理学履修単位の認定と統一試験の実施、専門資格については、専門学会による取得単位の認定と統一試験、高度資格については、今後詳細に検討する。専門資格については、インターン(実習) を必要とする。
 4)これらの認定については、心理学界に認定機構をつくる。
 5)現行諸資格との関係については、今後慎重に検討する。

 1999年7月には、日本心理学界協議会を前身として「日本心理学諸学会連合」が結成された。資格問題については新たに「資格検討委員会」を組織し検討された。委員会では当初、学界協議会報告の統一資格案と国家資格化の矛盾のない調整の検討から始められ、厚生省関連の資格優先案複数官庁における資格の平行創設案統一自主資格の創設案の選択肢について検討されたが意見集約には至らなかった。
 1999年12月の理事会には、各所轄官庁の担当部局との意見交換を行い、方針が妥協を許す
程度に合致するなら国資格化に向けての具体的協議に入る、と報告されている。

 2001年5月には、国家資格化をすぐに求めないで心理学についての基礎資格をどう考えるかということの検討ワーキンググループが組織され検討が進んだ。既に「日本心理学会」が認定事業を行っている「認定心理士」資格との関係について議論され、「認定心理士」を日本心理学諸学会連合へ委譲する方向での両者の協議も進められた。
 2003年には、基礎資格のワーキンググループを発展的解散し、新たな「資格認定・検定委員会」が組織された。筆記試験によって心理学の基礎知識を認定する検定試験を先行して準備しつつ、日本心理学会へは「認定心理士」の日本心理学諸学会連合への委譲を求め、その上で認定試験と検定試験の位置づけについての議論がなされた。
 2008年に、『当面、日本心理学会の認定心理士を日心連の基礎資格として承認する旨の文言を認定証に記載し、そのことに対して一定の承認料を日心から日心連に支払うこととする』との合意が両団体でなされ、2009年には日本心理学諸学会連合が実施する「心理学検定」が開始された。

日本心理学諸学会連合の目指したもの
 そもそもの発端は「日本臨床心理士資格認定協会」が心理学界全体でのコンセンサスがないまま「指定大学院制度」を作り、カリキュラムや教員配置への介入への対応を求めてのことだった。ここで連合としては、資格認定協会との対立ではなく、心理学界全体の合意に基づく統一資格の創設という方向性を志向していたようだ。
 議論は性急な国家資格創設ではなく、心理学の基礎資格について移行してゆき、資格という形ではないにしろ、「心理学検定」という一つの形を作り上げた。
 心理学界のコンセンサスに基づく統一資格創設という当初のコンセプトがあったから、以前書いたように「医療心理師国家資格制度推進協議会」と「臨床心理職国家資格推進連絡協議会」の間を調整し、「公認心理師」創設へとつなぐことができたように思う。

厚生省(→厚生労働省)

精神科医療・精神保健福祉をめぐる動き
 1984年の「報徳会宇都宮病院事件」以降、日本の精神科医療・精神保健福祉は急速に変わった。国際法律家委員会や国際医療職専門員会などによる調査も行われ、国連人権委員会などでも日本における精神保健・精神科医療の現場での人権蹂躙が取り上げられるなど、日本政府に対する国際社会からの非難が強まり、変わらざるを得なかった。1988年、「精神衛生法」を改正する形で「精神保健法」が施行された。

臨床心理技術者業務資格制度検討会
 こうした精神科医療制度改革の中で、精神科ソーシャルワーカーや臨床心理技術者を精神科領域のチーム医療を担う専門職として国家資格を創設する動きもみられた。
 1988年には「日本臨床心理士資格認定協会」が資格認定を始めており、1990年には文部省を主務官庁として法人化していたために、厚生省は臨床心理士とは別の医療分野に特化した心理資格制度のために
臨床心理技術者業務資格制度検討会を設置した。

 1990年 臨床心理技術者業務資格制度検討会(3年間)
 1991年 
厚生科学研究精神保健研究事業「臨床心理技術者の業務と養成の研究」(4年間)
 1995年 厚生科学研究精神保健医療研究事業「精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の業務及び国家資格化に関する研究
」(2年間)
 1997年 厚生科学研究精神保健医療研究事業「
臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」(3年間)
 2000年 
厚生科学研究精神保健医療研究事業「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」(2年間)

※年表は 『臨床心理学研究編集員会 (2005) 心理の国家資格は何故できないか-10年の時代状況を振り返りつつ、日本臨床心理学会のかかわりを検証する- 臨床心理学研究 42(3). pp.60-72.』 中の宮脇氏の第40回臨床心理学会大会資料に基づく。
と足掛け10年以上の歳月を、臨床心理技術者の資格についての議論に費やしてきた。
これらの事業の最終まとめともなる最後の事業の報告書は一般社団法人日本臨床心理士会HPにアーカイブされている(
HOME▶お知らせ▶提言資料集国家資格関連情報)。

10年超の議論の結論としては
 1.臨床心理技術者の国家資格化は必要である
 2.その資格は医療・保健施設に関わる範囲に限定する
 3.名称は医療保健心理士とする
 4.医療・保健施設においては、臨床心理業務は、医師の指示によって行う
 5.医療保健心理士の国家資格試験受験資格案を提案する
の5項が示された。

ちなみに5つ目の受験資格案については
 学歴:大学(4年制)卒(所定の心理学諸科目を履修、単位取得する)
 専門課程修学:以下のいずれか
  ①大学院 臨床関連心理 修士課程修了
  ②指定された医療、保健関係施設における3年間の研修
 臨床実習:
上記課程修了後、さらに指定された医療、保健関係施設において1年間の実習
というような、受験資格を得るために7~8年かかる案が出されていた。

 1995年からの「精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の業務及び国家資格化に関する研究」は、1993年の「精神保健法」の一部改正により「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」となった際に『精神保健におけるチーム医療を確立するため、精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討するとともに、精神保健を担う職員の確保に努めること』と付帯決議もあり実施され、「精神保健福祉士法」は1997年に成立した。
 「精神保健福祉士法」の付帯決議には
『精神保健におけるチーム医療を確立するために、臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討すること』(衆議院)、『精神保健におけるチーム医療を確立するために、臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討を進め、速やかに結論を得ること』(参議院)が示され、臨床心理職の国家資格制度について引き続き要請されていた。

 上記のように一応の結論は報告されたものの、研究班会議の実情は「医療限定か横断的汎用性か」、「臨床心理業務は医行為か」、「医師の指示か指導か」の点で一致がみられたとは言い難いものだった。そのため形だけの報告はされたものの、この成果が国家資格化に直接つながることはなかった。
 この後、関係団体のロビー活動により、国会議員の中で作業部会や勉強会が立ち上がり、内閣提出法ではなく議員立法を目指した動きが見られるようになる。

厚生省(厚生労働省)の動き
 精神科医療の中での人権蹂躙問題に端を発し、国際社会の要請を受ける形で臨床心理技術者と精神科ソーシャルワーカーの資格化が検討された。精神保健福祉についての法改正も慌ただしく何度も行われ、その度に付帯決議に資格化について言及もされた。国家資格の問題は、心理職やソーシャルワーカー当事者だけの問題ではなく、国としての精神保健福祉制度の問題となっていた。
 こうした経緯から求められたのは、精神科医療チームの一員としての担い手としての臨床心理技術者であり、医療・保健施設において医師の指示の下に医行為を行う心理職資格の骨格ができあがった。
 既に認定が始められていた「臨床心理士」側は、専門職としての自律性と専門性を保持すべく、医行為性と医師の指示に対して強く反対し、また医療限定での資格が先に立法化されることでその他の領域での臨床心理業務に支障をきたす可能性からも反対した。

全国保健・医療・福祉心理職能協議会
(全心協)

現場の声を国家資格に
 上述した1990年に始まった「臨床心理技術者業務資格制度検討会」の心理職代表メンバーが中心になり、医療・保健・福祉の現場で働く臨床心理技術者の声を国家資格創設に直接反映させるための団体創設の動きがみられた。
 当時すでに「日本臨床心理士資格認定協会」による臨床心理士資格の認定が行われていたが、認定協会は文部省管轄の法人となっており、厚生省との関係は良好とは言えなかった。そのため、厚生省へ現場の声を届けられる状況ではなく、新たな職能団体を設立する方向へと向かった。
 厚生省の資格制度検討会の検討状況を伝えるための「国家資格を知る会」を組織し、全国行脚しながらニュースレターの発行などを行い、職能団体設立の準備が進められた。1993年、約100名のメンバーで「全国保健・医療・福祉心理職能協議会
」を設立。臨床心理技術者の国家資格化の検討することを国会の附帯決議に盛り込むように立法府に要望したり、行政に働きかけて、資格を検討する厚生科学研究班のメンバーに全心協からの代表を送ったりと活動を進めた。

医療心理職の資格化へ向けて他団体との協働
 2002年に
厚生科学研究精神保健医療研究事業「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」の最終報告がなされるが、上述の通り内閣提出法には至らなかった。全心協はその後もロビー活動を続け、国家資格創設の要望書を他団体と連名で提出している。
 2003年には「日本精神科病院協会」が理事会で全心協の考えを支持し、バックアップを決議、2004年には傘下病院に全心協への入会を勧める通知を出し、全心協の会員数は560名を超えた。
 全心協と日精協の幹部らが会合を持ち、
国家資格創設を具体的に推進する団体を組織することを確認し、「医療心理師国家資格制度推進協議会」の設立を呼びかけ、2004年9月に推進協議会が設立された。

全心協のスタンス
 全心協の設立目的としては国家資格の設立と、その資格制度に現場で働く心理職の声を反映させることにあった。また、(前半)の記事でも述べたように、医療領域で働く心理職の身分・待遇は不安定であり、国家資格を求める声も切実であったと思われる。
 「臨床心理士」が「領域横断」、「医師との対等性」、「修士資格」の3つを強く主張したのに対し、全心協は基本スタンスを”医療保険領域における臨床心理業務は診療の一部を担うものであり医行為を含みうること、医療の安全性を守るためには医事法制に則ってその資質を担保する必要がある”としたことで、「日本精神科病院協会」等の医師団体からの支持を得ることができた。
 しかし、「臨床心理士及び医療心理師法案」という2資格1法案があがった時点において、国家資格を求める全心協と、2資格1法案へ反対を示す医師団体との間で利害の対立が起こり、「
医療心理師国家資格制度推進協議会」内部での調整が困難となった。

1990年代以降のまとめ

 今回の(後半)記事では、1990年代以降の各アクターの動きを概観した。
 「臨床心理士」は文部省のスクールカウンセラー制度と強く結びつき、非常勤ではあるが雇用を大きく拡大させた。また、大学設置基準の抑制例外に「スクールカウンセラーの養成に係るもの」が追加されたのも文部省との利害の一致があったためと考えられる。このことにより、大学・大学院での心理学専攻開設を増やす下地が作られた。
 一方、「臨床心理士」を養成するための指定大学院制度は心理学界全体でのコンセンサスを得られず、心理学界の統一資格を目指す動きを作り出すことにもなった。
 時をほぼ同じくして、日本の精神科医療・精神保健の惨憺たる実態が世界に知れ渡る事件が発覚し、国際社会の非難を受けて日本の精神保健福祉制度が変わらざるを得ない状況に立たされた。このため、精神科医療の担い手の一職種として厚生省主導で臨床心理技術者の資格制度の検討が本格的に実施されることになった。
 厚生省の検討会に参加した心理職から、国家資格制度に現場の声を反映させるための団体が立ち上がり、医療心理職の国家資格を求めるスタンスは、チーム医療の一員としての心理職を求める医師団体等に支持された。

2021/03/17

心理学界の分断の歴史考(前半)

 この前の記事では、二資格一法案時代からの系譜によって現在の公認心理師関連団体の分断について考えてみました。しかし、そもそも何故「二資格」という分断が生じていたのかという問題、現在の分断が「医療心理師国家資格制度推進協議会」と「臨床心理職国家資格推進連絡協議会」の対立の流れを正当に汲んでいるのかという問題がありました。
 そこで今回は、歴史をもっとさかのぼって心理学界、臨床心理職の分断の歴史を考えてみます。

 参考とした文献は、丸山(2004)堀(2013)。後はどこかで聞きかじった出所がよく分からなくなった情報も足しています。上記ふたつの文献はリンク先からPDFで読めます。

前半:前「臨床心理士」の時代
1960年代~1980年代

第一次専門職化戦略(1960年代)
 
アメリカ心理学会による制度化・専門職化に倣い、日本での心理技術者の資格検討は1950年から応用心理学会の先導のもと始められ、その動きは日本教育心理学会、日本心理学会へと広まった。
 1963年には関連14団体を含めた「心理技術者資格設立準備会」が設立され、1967年には「心理技術者資格認定委員会」へと発展した。
 同時期の1964年に日本臨床心理学会が発足した。学術組織として大学の研究者も参加しているが、現任の心理職従事者を中心に構成されており、資格認定運動の中心となっていった。「認定委員会」が教育・知識基盤を、「臨床心理学会」が職能問題を主に受け持つ形でこの時期の資格化は検討が進められた。
 しかし、この時期の資格化は最終的に見送られることとなった。
その背景には、
 ①所轄庁の問題:領域横断vs医療限定
 ②医行為の問題:心理療法を医行為と区分vs心理療法は医行為に含める
 ③教育の問題:修士レベルvs現任者の多くが修士レベルを満たしていない
といった、厚生省(当時)・医師側の要求との対立があった。

 「認定委員会」は、将来的な国家資格化が最も望ましいとしながら、高い専門性・自律性を具現化した学会認定資格を発足させる戦略を提示するが、身分安定を求める医療心理職から反発される。
 当時の「臨床心理学会」は、児童相談所の判定員が多数を占めていたものの、彼らは公務員としての身分を有しており、身分安定のための資格化を重要視していなかった。そのため、その次に多数派となる医療心理職が「臨床心理学会」の立場を左右し、「認定委員会」に対する対立姿勢を強めていった。
 結果、「認定委員会」としても職域のニーズなしには動けないので、「臨床心理学会」からの資格案が提出されるまで、資格発足は凍結することとなった。

 この時期の対立軸は、心理団体とvs厚生省・医師団体という医療制度からの自律性をめぐる対外的対立軸があった。また、心理団体の中でも、高い専門性を目指すグループvs早期の身分安定を求めるグループという内部での対立軸が生まれていた。

専門性への自己批判と専門職組織の解体(1970年代)
 1960年代後半から、大学闘争(大学紛争)や精神病院(現在の「精神科病院」)の環境への批判などが絡み、精神医学界では改革の機運が高まった。
 この機運は「臨床心理学会」にも波及し、心理検査や心理療法のもつ抑圧性を告発し、自己批判による反専門職主義が起こった。資格化(専門化)に対する批判と資格化されない(身分安定がない)医療心理職の不満が合わさり、
学会の上層部に対する批判へと発展した。
 1971年には「臨床心理学会」では理事の不信任が決議され、「学会改革委員会」が組織される。改革委員会は臨床心理職の知識・技術・業務を自己批判的に捉え続け、専門職化の推進力となる事を否定した。
 こうした学会(改革委員会)の動きは、現場の臨床活動も批判したため、専門性に依拠して職務を遂行する心理職にとっては立場を危うくするものでもあり、結果として多くの現職者・研究者の学会離れを招くことになった(1970年に1,646人居た会員は、1975年には847人へと激減している)
。職能団体機能を担っていた学会の専門性批判と会員の離散は、臨床心理職の職能団体が不在となる状況を作った。

 一方、精神医療の方は、専門性の解体までは志向せず、患者のニーズ中心の専門性を確立していく形で拡大していった。その拡大の中で、厚生省と精神科医の主導の下(当事者団体不在のまま)医療心理職の制度化は進められることとなった。

 この時期は、学会内での現場を無視した徹底した専門性批判と、それについていけず離反した者というように、組織内で対立を維持できず分裂・離散という結果をたどった。

第二次専門職化戦略(1980年代)
 1981年、診療報酬上の臨床心理検査が「臨床心理・神経心理検査」として整理され、『
なお、臨床心理・神経心理検査は、医師が自ら検査及び結果処理を行なった場合のみ算定する。』との文言が加えられ、これまで心理職が心理検査を実施してきた実態があるにもかかわらず、制度上評価されないことが明文化された。また、STやMSW・PSWの資格法制化も教育年数等の面で厚生省との交渉が難航していることもあり、厚生省が教育年限や業務範囲について不十分な資格を制定することへの危惧が生まれてきた。
 1982年には、「臨床心理学会」を脱会した旧理事を中心に「日本心理臨床学会」が発足し、
医療心理職の立場変化を踏まえた上での資格問題解決の受け皿となった。
 心理臨床学会は高等教育機関の制度上の整備も視野に入れ、厚生省のみだけでなく文部省(当時)への働きかけを行ってゆく。
 また、医療に限らない横断的な国家資格の制定の困難から、公的団体による資格の権威の下で関連する専門性を発展させる目的から、財団法人としての資格認定機関の設立を計画する。この計画は、1988年に関連12団体の協賛を得て「日本臨床心理士資格認定協会」の設立、1990の財団法人化として実現された。
 法人化の際の管轄官庁は、当初考えていた厚生省ではなく文部省となった。臨床心理職の養成制度について、教育より業務を優先、これまでの慣習(高卒後3年程度)を踏襲しようとする厚生省の態度に対して、大学院の拡充と高度専門職業人の養成機能を目指す文部省とは利害の一致がみられた結果と言われる。

 資格認定協会は1988年に1,595名の「臨床心理士」を認定し、1989年には臨床心理士による職能団体「日本臨床心理士会」が発足する。
 教育、認定、職能の機能をそれぞれ「日本心理臨床学会」、「日本臨床心理士資格認定協会」、「日本臨床心理士会」が担う三位一体の臨床心理士団体の形が作られた。

 「臨床心理学会」から分離する形で「心理臨床学会」が起こり、専門性を認められない国家資格化を性急に求めず、法人認定資格の下に専門性を発展させる道を選んだ結果として「臨床心理士」という資格が生まれた形となる。
 こうした経緯から、「臨床心理学会」と「心理臨床学会」との間にわだかまりが生まれることともなった。

1960年代から1980年代の約30年のまとめ

 資格化の動機として、専門家としてのアイデンティティの確立を求める動きと、身分の安定を求める動きがあった。学術団体が中心となり資格化に取り組み、「臨床心理学会」を作り現場の臨床心理職を取り込んだ。
 しかし、高度な専門性を希求する執行部は、早期の資格化による身分保障を望む(主に医療現場の)現任者のニーズに十分に応えることはできなかった。こうした現任者グループの不満と反専門職主義グループによって、専門性を希求するグループは学会を追われることとなった。
 その後の学会を主導したのは反専門職主義グループであり、資格化を目指して発足した学会は資格化を否定する組織となった。こうした体制から、資格化による身分保障を求めるグループは離反することになった。
 臨床心理職団体が不在の間、臨床心理職の専門性は認められない形で医療体制は整備されていった。現場では、身分保障だけでなく専門性を維持しようとする動機が高まった。
 こうして、学会を追われた高度な専門性を希求するグループと現場の臨床心理職が再会することとなり、「心理臨床学会」を組織して新たな資格化を目指すこととなった。

日本公認心理師協会の認定資格制度についての私見③

  ① 、 ② ではわりと批判的な私見を述べました。 批判だけじゃなんかアレなんで、好意的な意見も述べてみようと思います。 コンピテンシーモデルに基づいてるよ 日本公認心理師協会HP「 公認心理師の生涯学習制度について 」の下の方に、「専門認定に関するQ&A」pdfへのリンクがあ...