2021/03/03

日本公認心理師学会とは何か?

 2021年02月22日に、第1回日本公認心理師学会学術集会のHPが開設されました。
私の観測範囲(狭い)では、にわかに「日本公認心理師学会とは何者だ!?」との声が上がっています。
なので今回は、日本公認心理師学会について書いてみることにします。

日本公認心理師学会の位置づけ

 位置づけとしては、一般社団法人日本公認心理師協会の内部組織です。協会HPの組織図で確認することができます。

 協会の定款では以下のように規定されています。

第8章 日本公認心理師学会
(学 会)
第 48 条 この法人に日本公認心理師学会(以下、この定款において「学会」という。)を置く。
(学会に関する規則)
第 49 条 学会に関し必要な規則は、理事会の決議を経て別に定める。

 この第8章は三次変更(2020年7月31日)で追加された部分ですので、2020年の定時社員総会で決議されたのでしょう。私は協会の会員ではないので、経緯やどのような説明が会員になされたのかについては分かりません。

 第1回学術集会HPでは共催として「一般社団法人 日本公認心理師協会」と「一般社団法人 沖縄県公認心理師協会」が掲載されています。
 共催団体2つは分かるけど、じゃぁ主催(幹事団体)はどこなんだ?というのがよく分かりません。「日本公認心理師学会」は「日本公認心理師協会」の内部組織であるので、学会主催で協会が共催というのはおかしい感じがします。
 考えられる一つ目は、
一般社団法人 日本公認心理師協会」と「一般社団法人 沖縄県公認心理師協会」の協同主催という意味なのかなと考えます。もう一つ目は、映画やTVドラマ等の製作委員会方式の要領で、一般社団法人 日本公認心理師協会」と「一般社団法人 沖縄県公認心理師協会」の外に「第1回学術集会運営委員会」という組織を置いて、そこが主催(幹事組織)となり、一般社団法人 日本公認心理師協会」と「一般社団法人 沖縄県公認心理師協会」が共催するということなのかとも考えます。
 ま、実際の所はよく分かりません。

日本公認心理師学会の目的

 そもそも、何で職能団体(日本公認心理師協会)内部に学会を作ったのか?私にはその意図がよく分かりません。心理学系の学会はたくさんありますし、公認心理師を立法化するにあたっても、多くの心理系学会が動いてきました。なぜ、わざわざ新たに作るのか?

 公認心理師法第2条では、公認心理師の定義として以下のように定めています(下線部筆者)。
 この法律において「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
 つまり、公認心理師は「心理学」に関する専門知識及び技術をもって支援を行うと法律で規定されているわけです。つまり心理学という学術分野の知見の蓄積の上に依って立つ者であり、これまでの心理学諸学会の活動あってのものだと言えます。新たに内部組織として学術活動部を作るのではなく、既存の諸学会との連携をすれば良いのではないかと、個人的には思ってしまいます。

 医療系他職種の団体を見ると、職能団体内に学術部門を置くことはそう珍しくもないようです。「公益社団法人日本理学療法士協会」、「一般社団法人日本作業療法士協会」は、学術研究部門を組織し、日本学術会議の協力学術研究団体として指定されています(指定を受けるには学術研究団体としてのいくつかの要件を満たす必要があります)。この辺りは活動実態も踏まえて「学術・職能団体」と言えるでしょう。
 また、薬剤師関係の場合、学術団体として様々な薬学会がありますが、公益社団法人日本薬剤師会も学術大会を開催しているようです。薬学に関わる人は薬剤師だけでなく、製薬メーカーなども含まれてくるので、薬剤師のみで行う学術研究発表の場という棲み分けの意味があるのかなと思ったりもします。職能団体学術大会ということで、業務に直結するような研究発表が多いのかなと思ったりもします。一般社団法人医療薬学会は日本病院薬剤師会が中心になって設立した日本病院薬学会が前身であったり、なんかややこしいですが。

 他職種を見ると、業務と学問との関係や歴史的背景や事情も職種によって様々でしょうから、職能団体が学術研究活動をすることの目的や意義は一概には言えないような気がします。

日本公認心理師学会の意義

 日本公認心理師学会の設立によって誰にどんなメリットがあるのか、有りうるのかを考えてみます。

1)学術発表の機会の提供

 多くの学術団体では、学会発表をするにはその団体の会員にならなければいけません。会員になるためには一定の条件を課している団体もあります。心理系学会の中でも会員数が多く、対象とするテーマの幅がある程度広い団体として、一般社団法人日本心理臨床学会と公益社団法人日本心理学会の規程を見てみます。

日本心理臨床学会の入会資格(細則より)
第2条 定款第6条の(本会)正会員入会資格は、次の各項のうち何れかを有するものとする。
 1.大学院研究科等において心理学または隣接諸科学を専攻した修士課程あるいは博士課程前期の修了者及びこれと同等以上の学歴を有するもの。
 2.大学院研究科等において心理学または隣接諸科学を専攻する修士課程あるいは博士課程前期に在学するもの。
 3.大学学部において心理学または隣接諸科学を専攻し、卒業後2年以上の心理臨床経験を有するもの。
 4.上記以外で、8年以上の心理臨床経験を有し、かつ心理臨床学的業績の顕著なものと認められたもの。

日本心理学会の入会資格(正会員入会審査規定より)
2. この法人の正会員は,次のいずれかの要件を満たし,正会員1名の推薦があり,理事会の承認を得た者とする。
 (1) 4年制大学の心理学または心理学関係の学科・専攻等を卒業した者,または認定心理士資格を有する者。
 (2) (1)以外の者で,心理学または心理学関係の大学院の課程に在学する者,または同課程を修了した者。
 (3) 4年制大学において隣接領域を専攻した者で,卒業後2年以上心理学に関連する研究または業務に従事している者。
 (4) その他,心理学以外の領域の研究者で,修士以上の学位またはそれと同等以上の十分な研究経歴を有し,かつ心理学に関連する研究または業務に従事している者。

 というように、学歴でみれば大学卒業がほぼ必須条件となっています。では、公認心理師はどのくらい入会資格を満たすのか?
 以下の表は、公認心理師受験者に行われたアンケート結果のうち、学歴についてまとめました。

 受験者へのアンケートであり合格者の情報ではないのですが、第5回試験までは現任者への移行措置があるので、専修学校卒業や高等学校卒業の方も受験している事が分かります。
 また今後も、文部科学大臣が指定する専修学校の専門課程を卒業して公認心理師法第7条第2号に定める施設で実務経験プログラムを終了した者(公認心理師法施行規則第4条第2項第2号)が公認心理師となる可能性はあります。
 こうした方が学会に入会しようとすると、長い臨床経験や顕著な業績、研究経歴が必要となり、かなりハードルが高くなってしまいます。
 全体から見れば一部の者かもしれませんが、研究発表機会が得られない公認心理師も出てくる可能性はあります。

 全ての公認心理師に研究発表の機会を与えるため、職能団体に学術研究の場を設けるというのは一定の意義はあるかもしれません。

2)学会発表の練習の場の提供

 「学会」と名前がついていても、職能団体内の下部組織なので、いわば内輪の会のようなものです。正式な学術組織としてではなく、公認心理師間での情報共有の場と位置付けて、ちゃんとした(という言い方が適切か分かりませんが)学術団体での学会発表のための練習の場のような形で取り扱う方法もあるかもしれません。

3)他の制度との紐づけ

 学術集会HPには、「単位取得について」というページも設けられています。単位って何でしょう?今の段階では全く分かりません。公認心理師協会では専門資格制度の構想もあるようなので、そうした資格の取得や更新の制度と紐づけるつもりがあるのかもしれません。
 そうだとしても、その為に日本公認心理師学会を作るというのはあまり意義が薄い気はしますが。

結語

 アレコレ考えてみましたが、結局のところ分かりません。公式からの情報が少なすぎます。日本公認心理師協会の会員にはもっと情報が提供されているのでしょうか?



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  ① 、 ② ではわりと批判的な私見を述べました。 批判だけじゃなんかアレなんで、好意的な意見も述べてみようと思います。 コンピテンシーモデルに基づいてるよ 日本公認心理師協会HP「 公認心理師の生涯学習制度について 」の下の方に、「専門認定に関するQ&A」pdfへのリンクがあ...