2021/01/20

公認心理師(全国)職能団体を比較してみる

  世の中には、さまざまな資格職がありますが、多くは職能団体を組織しています。職能団体とは、専門的資格を持つ専門職従事者たちが、その専門性の維持・向上や、専門職としての待遇や利益を保持・改善するために活動する組織です。 
 また、国家資格職の場合、公共の利益を目的としていますので、その目的を果たすために政策への提言を出したり、専門家会議に参加したりするのも大きな役目の一つです。

 「公認心理師」は2018年に第1回試験が実施された、できて間もない新しい国家資格です。資格の根拠となる「公認心理師法」の目的を示す第1条は

第一条 この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。

と定められており、公認心理師は多くの方の「心の健康」に資する活動を行う専門職といえます。

公認心理師の職能団体

 公認心理師の職能団体を称する全国組織はいくつかあります。公認心理師登録者をはじめ公認心理師団体にアクセスしようとする方々にとっては、“何でいくつもあるの!?”、“いったい何が違うの?”と困惑していることと思います。
 ということで、今回は「日本公認心理師協会」と「公認心理師の会」について、何がどう違うのかを比べてみます。
 それぞれの団体のHPは以下の通りです。

一般社団法人日本公認心理師協会

一般社団法人公認心理師の会

 HPを見比べても内容やデザインが何となく違うというのは分かりそうです。入会案内も見やすいところにあるので、年会費の違いなんかもわりとすぐに比較できると思います。
 どちらの団体も一般社団法人として登記されているので、法人の根本規則である定款について比べてみます。
 定款が公開されている場所ですが

日本公認心理師協会
  HP>本協会について>定款・規程のページにあります

公認心理師の会
  HP>当会についてのページの下の方に「定款」の項目があります

定款比較(目的と事業)

 定款にはその法人の目的と、どんな事業を行うのかが定められています。どちらの団体も第3条が目的、第4条が事業として定めています。

日本公認心理師協会

(目 的)
第3条 この法人は、人々の心の健康に関する諸課題に対応するため、全国の公認心理師の連携を促進し、その英知を結集し、もって人々の健康と福祉の増進に寄与することを目的とする。

(事 業)
第4条 この法人は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
  (1)心の健康及び諸課題に関する支援の充実及び普及啓発を図る事項
  (2)心の健康及び諸課題に関する地域生活の向上に寄与する事項
  (3)心の健康及び諸課題に関する科学及び技術の発展を図る事項
  (4)心の健康及び諸課題に関する科学及び技術の国際交流を図る事項
  (5)心の健康及び諸課題に関する施設の整備に寄与する事項
  (6)心の健康及び諸課題に関する法規の整備に寄与する事項
  (7)公認心理師の資質の向上を図る事項
  (8)公認心理師の職業の安定及び福祉の向上による人々の心の健康及び福祉の増進に関する事
  (9)その他この法人の目的達成のために必要な事項
 2 前項の事業は、本邦及び海外において行うものとする。

公認心理師の会

(目的)
 第 3
条 この法人は公認心理師のスキルアップとキャリアアップを支援することを目的とする。 

(事業)
 第 4 条 この法人は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
  (1) 研修会等の開催
  (2) 専門資格認定事業
  (3) 機関誌・会報等の発行
  (4) その他この法人の目的を達成するために必要な事業

 ふたつの団体はそもそも目的が異なることが分かります。
 「日本公認心理師協会」が『人々の健康と福祉の増進に寄与すること』を目的にしているのに対して、「公認心理師の会」は『公認心理師のスキルアップとキャリアアップを支援すること』を目的としています。

 目的が異なれば、それを達成するための事業も異なります。
 「日本公認心理師協会」は『心の健康及び諸課題に関する』多種多様な事業を想定しているのに対し、「公認心理師の会」は『研修』、『専門資格』、『機関誌』と非常にシンプルな事業展開を想定しています。

 団体としての目的と事業の比較をまとめます。

日本公認心理師協会
 国民の心の健康に寄与する事を目指す。
 公認心理師の資質向上や職業の安定はその目的達成のための手段の一つ。

公認心理師の会
 公認心理師のスキルアップとキャリアアップを目指す。

定款比較(社員資格)

 ここでいう社員とは、一般的に使われる「会社に雇用される従業員」という意味ではなく、「一般社団法人の構成員」のことを指します。
 社員は、法人の最高決定機関である「社員総会」での議決権を持ち、理事や監事といった役員の選任・解任や計算書類の承認、定款変更や解散・財産の処分など法人にとっての重要事項の決定に参加します。

 まずそれぞれの社員資格を規定している定款の条項を確認します。どちらも第5条に定めています。

日本公認心理師協会

(種 別)
第5条 この法人の会員は、次の4種とし、正会員をもって一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成 18 年法律第 48 号)(以下、この定款において「法人法」という。)上の社員とする。
  (1) 正会員
   ① 公認心理師法(平成 27 年法律第 68 号)(以下、この定款において「法」という。)第 28条の規定により公認心理師の登録を受けた者であって、この法人の目的に賛同して入会した個人
   ② 法附則第2条の定めにより公認心理師試験を受ける意思を有し、かつ次に掲げるいずれかの資格の登録を受けた者であって、この法人の目的に賛同して入会した個人
   ア 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定する臨床心理士
   イ 一般社団法人学校心理士認定運営機構の認定する学校心理士
   ウ 一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構の認定する臨床発達心理士
   エ 一般財団法人特別支援教育士資格認定協会の認定する特別支援教育士
  (2) 準会員 前号②の正会員であった者が、2022 年 9 月 15 日以後も引き続きこの法人の目的に賛同し、理事会が別に定める手続きによって入会した者
  (3) 賛助会員 この法人の目的に賛同し、この法人の事業を賛助する個人又は法人
  (4) 名誉会員 この法人に功労のあった者又は学識経験者で、理事会の推薦を受け、総会において承認を得た個人

公認心理師の会

(法人の構成員)
第 5 条 この法人の会員は、公認心理師の資格を有する者とする。
 2. この法人の社員は、会員の中から理事に選任された者のうち、理事会において選定され、その就任を承諾した理事長、副理事長及び事務局長をもって、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」とする。)上の社員とする。
 3. 社員の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する社員総会の終結時までとする。
 4. 任期の満了前に退任した社員の補欠として選任された社員の任期は、前任者の任期の残存期間と同一とする。
 5. 社員が次の各号のいずれかに該当するときは、社員総会の決議により解任することができる。ただし、議決に先立ち、当該社員に弁明の機会を与えなければならない。
  (1) 心身の故障のため職務の執行に堪えないと認められるとき。
  (2) 職務上の義務違反その他社員たるにふさわしくない行為があると認められるとき 。

 文字で見ると少しわかりにくいかもしれませんが、端的に示すと

「日本公認心理師協会」の社員は『正会員』

「公認心理師の会」の社員は『理事長』、『副理事長』、『事務局長』

ということになります。
 正会員、社員、理事の関係を図で示すと以下のようになります。
 ※理事会設置一般社団法人では、法人を代表する代表理事を理事の中から選出する必要があります。


 「日本公認心理師協会」は、正会員が社員となり、法人の重要な決定事項に関わります。理事の任期が満了する際は、社員総会で正会員が次期理事を選任します。
 「公認心理師の会」は、理事の中から選ばれた三役(理事長、副理事長、事務局長)が社員となり、法人の重要な決定事項に関わります。社員の任期は理事の任期と同じく設定されているので、理事の任期が満了する際は、社員総会で三役が次期理事を選任し、次期理事の中から三役(次期社員)を選びます。

 定款で定めている所だけを見ると、正会員が法人運営に関与するかどうか、というのが大きな違いです。

日本公認心理師協会
 正会員が法人運営に関わる。
 会員数が増えると社員総会を開催するためのコストが大きくなる。

公認心理師の会
 正会員は法人運営に直接関わらない。
 法人としての意思決定を理事だけで行えるので運営の小回りが利く。
 理事(特に三役)に権限が集中するので、̠寡頭や独裁体制に陥りやすい。

 両団体の体制にはそれぞれデメリットと思われる部分もあるので、内部規程を整備する等して運営されていくのだと思います。上記はあくまで定款における体制の比較です。

まとめ(両団体のイメージ)

 2つの公認心理師団体それぞれの定款に基づき、目的と事業、運営体制を比較しました。どちらも職能団体と称していますが、2つの団体には大きな違いがありました。主観を交えて両団体のイメージを記します。

日本公認心理師協会
 公認心理師の社会的責務を果たすための、公認心理師による社会活動団体
 ※団体の目的は公認心理師法の目的とほぼ重なる。
 ※2022年9月14日までは、公認心理師以外の正会員も存在する点で、現時点では厳密に公認心理師による組織とは言えない。

公認心理師の会
 公認心理師を対象とした、教育研修団体
 
※公認心理師のスキルアップ・キャリアアップにより、広く国民の心の健康に寄与する可能性は考えられる。しかしそれは目的にない副次的な結果である。

おまけ(設立時期)

 「日本公認心理師協会」の定款には『制定 2014 年 12 月 17 日』とあります。公認心理師法が公布されたのは2015年9月16日、施行は2017年9月15日です。公認心理師法ができる前に作られていた事になります。

 国税庁の法人番号公表サイトでも確認しましたが、法人番号指定年月日は『平成27年10月5日』(2015年10月5日)となっていました。法人番号の指定は法務局への設立登記申請日より少し遅れるので、公認心理師法が成立した直後(もちろん法が施行される前)に登記されたということは確かです。法が成立したとほぼ同時に登記するために準備し、2014年12月17日には定款を作っていたというのは間違いないでしょう。
 HPの新着情報をさかのぼると、HP公開は『2019年2月1日』となっています。第1回国家試験の合格発表が2018年11月30日だったので、長い休眠期間を経て、そろそろ資格登録者が誕生するという時期に活動を開始したようです。

 ちなみに「公認心理師の会」の法人番号指定年月日は『平成31年4月23日』(2019年4月23日)となっています。HPの開設は『2018年11月1日』となっており、『2018年11月28日』には『設立の経過,当会について,運営委員,お問い合わせ,入会案内を掲載しました』とあります。活動開始は「日本公認心理師協会」よりも少し早いようです。
 「公認心理師の会」は法人格を持たない任意団体としてまず活動をはじめ、後に一般社団法人として登記した形になります。

※2021年4月16日追記

「日本公認心理師協会」と「公認心理師の会」の履歴事項全部証明書を確認しました。
 「日本公認心理師協会」の法人成立の日は2014年12月17日。定款に書いてある制定の日に登記されています。ということで、「日本公認心理師協会」は公認心理師法ができる以前に設立されていたということです。
 法人番号指定日が「平成27年10月5日」となっているのは、番号法の施行日がこの日付とのことでしょう。

 ちなみに、「公認心理師の会」の法人成立の日は2019年4月19日でした。


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日本公認心理師協会の認定資格制度についての私見③

  ① 、 ② ではわりと批判的な私見を述べました。 批判だけじゃなんかアレなんで、好意的な意見も述べてみようと思います。 コンピテンシーモデルに基づいてるよ 日本公認心理師協会HP「 公認心理師の生涯学習制度について 」の下の方に、「専門認定に関するQ&A」pdfへのリンクがあ...